施設に入る前と明らかに違う。要介護5の寝たきりのミキサー食になり認知症も進んだ母。一人でベッドから立ち上がることも、トイレに行くこともできない。食事も排泄もすべてベッド上。そのため素人の私が2、3時間置きにパッド交換をしたり、(寝返りが打てないので)褥瘡防止の体位変換をしたりした。体温調節がうまくできなくなってしまったので熱がこもらぬようにと布団もかけたり外したりした。「気にしなくていい」「大丈夫よ」と気遣ってくれることもあったが、「オムツがずれてる。ヘタ」
と言われることもあった。
父は尿意便意もあり、
トイレ誘導をすれば自立してトイレで排泄ができる。しかしリハビリパンツや下着が濡れることも多く、失禁もあったので、頻繁に衣類の交換を行った。そのつど父は「何で着替えなくちゃならないんだ」と聞いてきた。貧血で着替え中にふらっと倒れ込みそうになることもあった。父も嚥下機能が落ちていたのでむせ込み防止に飲み物にはとろみをつけて出した。食事の用意は、母にはミキサー食、父には通常食。入浴は自宅ではせずに全身清拭(せいしき)のみ。これだけでも一人で二人を看るのはいっぱい、いっぱい。自分の夕食を食べ忘れていたことを布団に入ってから気づいたこともある。夜も数時間おきに二人の寝息を確認した。
■30分でもいいゆっくりしたい
30分でいいからゆっくりしたい。誰か1時間でも家に来てもらえたら、といつも願っていた。「お風呂に入る時間もない」と廊下でこぼすと、ベッド上の母から「風呂なんか入らなければいい」の声がやりのように飛んできた。本来は人に気を使う優しい人。私も母も、あの頃はぎりぎりだった。
「市販のミキサー食を利用して適度に力を抜いて」と看多機の職員から助言をもらっていたが、これまで特養で我慢させてしまった負い目から、なるべく母の好きなものを食べさせたかった。ミキサー食専用ハンドブレンダーを買って、どら焼きやらあんぱんやらを緑茶を加えてミキサー状にして出した。母は「おいしー!」と喜んだ。