背景には、健康な子どもにとってはワクチン接種のメリットが必ずしもデメリットより大きくないという判断がある。

 英JCVIは、健康な子どもは重症化する可能性が低いのでワクチン接種によって得られる利益は小さく、しかも英国内では高齢者ら重症化リスクの高い成人の多くがワクチン接種を終えているため、子どもへの接種に流行を抑える効果があるかどうかも不確実だとした。

 一方、発生頻度は低いものの、接種後の心筋炎が若い世代で相対的に多いことや、詳細がまだ十分にわかっていない点を考慮し、安全性についてさらに情報が蓄積されるまでは「予防的な対応が望ましい」と、子どもへの接種を推奨しないとした。

 米国と英国の判断の違いの背景には、地域の流行状況や成人のワクチン接種率の差がある。感染が多ければ子どもも感染するリスクが大きくなる。子どもは重症化しにくいものの一定の割合で重症化するので、感染者数が増えれば重症化する子どもの実数も増える。また、成人のワクチン接種率が十分に高ければ、子どもが接種しなくても感染が広がる可能性は低くなる。

■英国は成人接種率7割

 全死亡者数における比率は低いが、米国では7月21日までに17歳以下の493人が新型コロナ感染症で亡くなった。英国では5月時点で亡くなった子どもは30人未満だ。米国のワクチン接種率は世界的には高いが、成人の7割近くが接種を終えた英国には及ばない。

 日本はどうか。日本小児科学会は、子どもへの接種は「意義がある」としつつ、「先行する成人への接種状況を踏まえて慎重に実施されることが望ましい」としている。

 国内では7月22日現在、亡くなった20歳未満はいない。第5波に入りつつあるとは言え、過去1週間の人口10万人当たりの新規感染者数は都道府県で最も多い東京都で69.55人。米国の84.9人より少ない。米国は今年1月には500人を超える週もあった。

 厚労省の予防接種基本方針部会の部会長代理を務める川崎医科大学の中野貴司教授(小児科)はこう指摘する。

「心筋炎や心膜炎は、新型コロナウイルスに感染しても起こります。原則的には、12歳以上の子どもにもワクチン接種をお勧めします。ただし、日本は欧米より小児を含めて感染が少ないだけに、より重症化リスクの高い高齢者や中高年などへの接種がまだ終わらない時点で、子どもへの接種を進めるのがいいのかどうかは、検討が必要です」

 世界保健機関(WHO)はファイザー社製ワクチンについて、医療従事者や高齢者、持病のある人など優先的に接種を受けるべき人たちの接種がほぼ終わった後に、12~15歳への接種を検討するよう求めている。

 子どもに打つ際には、成人の場合よりもより丁寧な事前の準備が必要だ。

「子どもは自分で体調の変化をうまく表現できないことがあるので、接種前に副反応で起きる可能性のある症状をわかりやすく説明しておく必要があります。また、持病のある子どもは発熱などが大きな負担になる場合もあります。接種が可能かどうか、副反応が起きたらどう対処するかなどを事前に主治医と十分に相談して下さい」(中野教授)

(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2021年8月2日号

[AERA最新号はこちら]