天皇陛下は大会関係者に該当するため、IOCから提供されたワクチンの優先接種を受けることができる。ところが、天皇陛下をはじめ、皇后雅子さまや皇室の方々は「国民と同じ優先順位で接種する」という方針を現在でも変えていない。
そのため、大会関係者の多くが6月中に1回目のワクチン接種を終えたにもかかわらず、天皇陛下が1回目のワクチンを接種したのは7月6日。どのメーカーのワクチンを接種したかは明らかになっていないが、接種間隔が短いファイザー製のワクチンでも20日間は間隔をあける必要がある。そうなると、2回目の接種は最短でも27日だ。さらに、ワクチンの効果が最大化するのは7~10日後。天皇陛下は、1回目の接種だけで開会式に出席した可能性が高い。
国民の分断を加速させたのは、コロナだけではない。今大会が開催されるまでにはスキャンダルが頻発していた。森喜朗前組織委員会会長は女性蔑視発言で2月に辞任。開幕4日前には、開会式の楽曲を担当したミュージシャンの小山田圭吾氏が過去のいじめ問題で辞任し、開会式前日には開閉会式ディレクターの小林賢太郎氏が過去のコントの中でユダヤ人虐殺を揶揄(やゆ)していたとして解任された。だが、こういった一連の問題について、谷口氏は「組織委員会だけの問題ではない」と話す。
「実態として、日本人の人間的な資質が総じて劣化している。第2次世界大戦でたくさんの犠牲者が出たのに、ちゃんとした批判や自己検証をやってこなかった。それが、安倍晋三前首相が大会招致のときに福島第一原発を『アンダー・コントロール』と言い、菅首相が『安全・安心な大会』と繰り返していることにつながっている。今後、コロナによる感染者が増えたときに大会を中止できるのか。今、私たちは試されている」
簡素化を目指した大会総経費は、最終的には約1兆6440億円にのぼった。うち約9千億円は国と東京都の税金から負担されている。その意義はどこにあるのか。57年前の東京大会のときとは違った「この国のかたち」が問われている。(本誌・西岡千史、亀井洋志)
※週刊朝日 2021年8月6日号