「歴史を振り返ると、数々の厄災や争いや事件を乗り越え、それでも残っているのが芸術です。私も文学の視点から、日々芸術のあり方を感じていますが、アートというのは、地球上の全ての生命体の中で人間だけに許された“生きる証し”です。この濁流の中にいても、人間は、芸術とつないだ手を絶対に離してはいけない。この作品の完成は、私たちが諦めてはいけない、その大切な芸術活動の一つの結実なのです」

 映画の完成のタイミングに合わせて、原田さんは、山田監督の書いた脚本を、自らの手でノベライズした。原作者が、脚本を再度ノベライズするとは、山田監督をして言わしめたのが、「おそらく、映画界で初めてだ」ということ。原田さんによれば、『キネマの神様 ディレクターズ・カット』は映画に対する「返歌」であり、山田監督への感謝状でもあるという。(菊地陽子 構成/長沢明)

原田マハ(はらだ・まは)/1962年生まれ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史学専修卒業。伊藤忠商事、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務を経て、2002年フリーのキュレーター、カルチャーライターに。06年、『カフーを待ちわびて』で作家デビュー。『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞受賞。アートを題材にした小説を多数発表。新書やエッセーも手がける。

週刊朝日  2021年8月6日号より抜粋

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