業務はスピードと効率が第一とされる現代は、向かいの席の同僚との連絡もメールやダイレクトメッセージが一般的。そんななか、一言「お疲れ様です」など手書きの言葉が書類に添えられていたら、どのように感じるだろう。ちょっとうれしく、ふっと癒やされるのではないだろうか。デジタル全盛の今だからこそ、手書きの魅力はビジネスの場でも活きてくる。文字を書くのが苦手な人でも取り入れやすいのが一筆箋。その活用術について、専門家に話を聞いた。
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「対面営業やいわゆる“セールス”に苦手意識を抱く人も多いですが、コツコツ手書きする作業なら自分のペースでできる。相手の喜ぶ顔を思い浮かべて言葉を手書きしていると、自然と意識も前向きになって仕事が楽しくなります」
このようにビジネスシーンでの手書きの効果を説明するのは、手紙文化振興協会のむらかみかずこさんだ。相手のためにひと手間かけることで、手軽でありながら思いがきちんと伝わるところが一筆箋の最大の魅力だと語る。自身が書く手紙も年間で約1000枚超という。
こんなエピソードがある。むらかみさんから伝授されたノウハウのもと、ある地域の新聞販売店の店主の夫人たちは、台風で配達が遅れた翌朝や集金後、明るい色のペンやシールを駆使し、一筆添えて新聞を届けるようにした。ネットの普及で新聞購読者数は減少傾向にあるが、対策として地道に続けられる営業活動だった。
ほかにも、入退院にともない配達の一時停止希望の連絡を受けた後や、子どもがいる家庭には新学期や夏休みのときなどに一筆箋を添えていたという。
その結果、お客さんから「ありがとう。手書きのメッセージが嬉しかった」といった好意的な声が寄せられるようになったという。次第に成果として数字にも現れた。以前と比べて解約率が約3~5割も減った販売店もあるというから驚きだ。
「手紙は相手との関係を良くするために書くもの。柔らかさや人間的な温かみを加味することで相手との心の距離が近くなり、信頼関係を築くこともできます」(むらかみさん)