「私の実感でもあるんですけど、女の方が成長すると男女はうまくいかなくなることが多い。沙良が女優として注目されると柏木さんは急にうれしくなさそうなんです。それをセリフや説明ではなく、ちょっとした場面で表せたらと思いました」

 数多くの恋愛小説を書いてきた島本さんは、この相手しかいないという恋を描いても、小説の最後には関係が終わってしまうことを自分でも不思議に思っていた。それが今回、自分が書いているのは単なる恋愛ではなかったことに気づいた。

「男女が一瞬でひかれあって、夜も朝も時間を共にすれば恋愛という名前がつくんですけど、私の小説の主人公たちは何も持たなかった子ども時代の自分や相手と向き合いたいのかもしれない」

 その関係はやはり主人公が成長することで変わっていく。

 11年前に息子が生まれてからは朝型になり、夕方まで仕事場で執筆する。ときにはワインバーに寄ってクールダウンしてから帰る。同世代の女優の深田恭子がサーフィンをする姿に感動し、昨年サーフィンを始めた。朝6時に家族に見送られて湘南へ。必要な筋力をつけるためにベリーダンスも習い始めた。

「体を揺らしたり肩甲骨を上げ下げしたり、ほぼ筋トレなんです。毎週レッスン後の3日間は筋肉痛でロボットみたいになっています」

 6年前に書き始めたこの小説を単行本にする際に大幅な改稿を行った。ここ数年、急速に変化している性差に関する表現や価値観がアップデートされ、男性側の苦しさも描かれている。(仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2022年12月9日号