日本の空港でのワクチン接種もはじまった。帰国後に1回目を接種し、3週間、日本に滞在し、2回目を接種して出国するパターン。しかしこれは現地でワクチンが接種できない人が対象で、アストラゼネカ1回接種組はここでもはじかれてしまう。

「ワクチン難民か……」

 Aさんは天を仰いだ。子供の学校問題もあった。いつタイに戻るのかわからず、私立の学校となるとなかなか受け入れてくれない。子供も学校難民?

 インドネシアでは、6月の段階で、アストラゼネカが比較的簡単に接種できた。

「たぶんハラル認定の問題では。アストラゼネカはハラル認定が遅れて、かなり余っていたという話です」

 というのはインドネシア・ジャカルタ在住のHさん(48)。彼もすんなりと1回目の接種が終わった。2回目は9月に接種する予約も入った。しかしこの1回目接種が難民化の引き金になっていくのはタイ同様。

 インドネシアも感染者が急増。7月中旬、毎日、5万人を超える感染者数が発表された。日系企業のなかには駐在員の帰国命令を出す。しかし日本に帰国すると、タイの駐在員と同じことになってしまう。

 そんな人たちに、7月末、日本政府がアストラゼネカの接種を認めたことは朗報だった。40歳以上に限られてはいたが。

 しかしそこで接種証明問題が浮上する。とくにインドネシアの場合、入国にはワクチンを2回接種した証明が必要なのだ。

「日本で発行できるのは2回目を接種したという証明書です。それに現地で接種した1回目の証明を合わせて入国できるかはインドネシア政府の問題」(内閣官房)

 ジャカルタ在住のHさんはすでに日本に帰国している。

「日本政府は早くアストラゼネカを使うことを発表してほしかった。私は1回目接種を隠して、日本在住者としてゼロからワクチン接種をはじめてしまいました。インドネシアに戻るときのこともあるし、そのほうが早く接種が終わりそうだったので。これからファイザーを2回打ちます。でも……、大丈夫ですよね」

 Hさんは不安を隠せない。

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。

暮らしとモノ班 for promotion
大谷翔平選手の好感度の高さに企業もメロメロ!どんな企業と契約している?