オリンピック開催中の東京を中心に全国で感染拡大が止まらない。尾崎治夫・東京都医師会会長は「重症患者が増えなくても感染急増で医療崩壊」と警告する。AERA 2021年8月9日号から。
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――東京都の新規感染者数が過去最多を更新し続けている。7月29日までの1週間平均は2224.1人で、その前週の平均の1.6倍以上になった。これまでにないスピードの増え方だ。
4度目の緊急事態宣言が出ているにもかかわらず感染が急拡大しているのは、ウイルスがより感染力の強い変異株に置き換わりつつあるのに、人の流れが十分に減っていないからです。
変異株「デルタ株」の感染力は、従来のウイルス株より2倍近く、第4波で流行した「アルファ株」より1.5倍程度強いとされています。都内では少なくともウイルスの半数がデルタ株に置き換わっています。
それに対し、人流は今回の緊急事態宣言の前に比べ2割程度しか減っていません。デルタ株の感染力を考えれば5割以上減らないと感染拡大は防げません。
人流が十分に減らない原因はオリンピック開催と、政治家の発言です。
これまでの努力を結実させているアスリートの方たちをみれば、開催にも良い面はあったと思います。しかし、新型コロナウイルス対策にとっては負の側面ばかりです。都民をはじめ国民は、自分たちの盆踊りやイベントも中止になっているのにオリンピックは開催されている現状をみて、「オリンピックが開けるなら出歩いてもいいだろう」という心境になっている方が少なからずいると推測できます。
■現場を丹念に見て
しかも、菅義偉首相や小池百合子都知事は、「人流は減少している。心配はない」「高齢者のワクチン接種が進んでおり、(都内が医療崩壊寸前になった)第3波の時とは状況が異なる」などと発言しています。それを聞けば、国民がますます「ならば自粛しなくていい」と思っても仕方ないでしょう。
確かに高齢者のワクチン接種は進んでいます。しかし、40代や50代も重症化します。都のモニタリング会議や政府の分科会の専門家は皆、医療体制の逼迫の危険性を訴えています。政府や都の責任者は専門家の声にきちんと耳を傾けるべきです。