――吉村憲彦・都福祉保健局長は27日、「医療提供体制がにっちもさっちもいかなくなる現状はない」と記者団に説明した。
現場を丹念に見てほしいと思います。数字だけ見れば、新型コロナウイルス患者の受け入れベッドが5967床あるのに対し29日の入院患者は3039人、うち重症患者受け入れベッドは392床、入院は81人ですから、余裕があるようにみえます。
しかし、かつてない勢いで感染者が急増しているために入院の受け入れが間に合わなくなっています。感染者用ベッドが30床あってうち15床空いている病院が、今日1日で新規に15人受け入れられるかといえば、それは難しい。医師や看護師ら医療従事者が足りないからです。
■都は方向転換したよう
政府や都は、重症者が減ってきているから医療提供体制は逼迫しないと言いますが、そんなことはありません。
最近、中等症の患者が増えてきています。中等症でも酸素投与の必要な人がいて、容体が悪化すれば人工呼吸器などで対応しなければならないために医療従事者は目を離せず、中等症とは言え、医療機関への負荷は小さくありません。
都内では入院先が見つからない感染者が増えています。入院先や、宿泊療養施設での療養を調整中のため、自宅で待機している人が29日現在、5575人に達しています。
――都は医療機関に対し、救急医療や一般診療を縮小したり手術を延期したりするなど通常医療を制限することも視野に入れて、新型コロナ感染症患者の受け入れが可能になるような医療提供の確保を要請した。
都は少し前まで都医師会と一緒に、都内の医療体制を守り、新型コロナウイルスにも他の医療にも対応しようとしてきたのに、都は最近、方向転換したようにみえます。
医療は新型コロナウイルス感染症の治療だけのために必要なのではありません。今の季節、高齢者を中心に熱中症で具合の悪くなる人が増えています。早く適切に対処しなければ命にかかわりますが、通常医療を制限すれば、熱中症患者の受け入れができなくなる恐れがあります。
都内では実際に、救急搬送が必要な患者さんについて、救急隊が5カ所の医療機関に受け入れを要請するなどしても搬送先が決まらない件数が急増しています。20日には過去7日間の平均で62.0件だったのが、28日には同93.3件と1.5倍になりました。