形は決められた102種類の中から一つを選び演武する。男子形に出場した11選手のうち7選手が、劉衛流の伝統形を選んだ。1次リーグA組の第2演武では、5人中3人が「オーハンダイ」を打ち、A組準決勝では3人全員が「アーナンダイ」を打つ場面も見られた。佐久本さんはこう目を細める。

「今回たくさんの方々が劉衛流の形を使ってくれて、とてもうれしく思いました。ちっぽけな流派の形をあんなに多くのみなさんが……。喜友名にあこがれて、みんなこの形を使っていると思います」

 喜友名が「アーナンダイ」を公式戦で初めて演武したのが17年。19年には「オーハンダイ」を初演武した。それまでほぼ知られていなかった形が、各国・地域の選手に広がっていった。

 東京五輪で日本勢は史上最多を大幅に更新する金メダルを獲得した。一方で、金メダルの有力候補と言われながら早々と敗退した選手もいた。「五輪には魔物がいる」と言われるが、4年に一度の舞台、しかも自国開催というプレッシャーの中で実力を発揮できなかった選手も少なくなかった。

 喜友名は「日本勢で金メダルに一番近い選手」とも期待された中で、まったく動じていなかった。「大会よりも先生の前で思い切って稽古するほうが緊張する」というほどの質の高い稽古を積み重ねてきたという自信が、精神的な強さにつながっている。

 空手は東京五輪で新たに採用されたが、次の24年パリ五輪では実施されない。今後のモチベーションについて、喜友名は言った。

「空手に関して、稽古すればするほどわかってくるものたくさんありますので。まだまだ技術を磨いていけると思いますし、何年も何十年も空手を続けることによって技は磨かれますので、一生鍛錬して精進していきたいと思います」

 佐久本さんはこう話した。

「喜友名が空手をわかる年齢というのは、70を超してからじゃないかなと思います。いまは勝ち負けを楽しんでもいい。喜友名を評価するのはあと30年後。技術もメンタルも含めてこれからだと思います」

(編集部・深澤友紀)

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