「19年11月末ごろに福岡県の家族連れファンが訪れたのがきっかけでした」と振り返るのは、八幡竈門神社の宮司を務める西本隆秀さん(50)だ。

「20年の秋ごろになると国内外の多くのメディアで当社が取り上げられるようになり、観光客の数も急増しました。Go Toトラベルキャンペーンの影響もあり、当時は九州だけでなく全国からファンの方が訪れていましたね。また、子どもに人気の作品ですから、両親祖父母と共に3世代で来られるケースが目立っていました。『鬼滅の刃』は言ってしまえば侍の鬼退治の話なので、高齢者にも受け入れやすいのだと思います。世代を超えた共通の話題になっていると感じますね」

 ところが今年1月以降、緊急事態宣言が断続的に続き、観光客が激減しているという。西本さんがこう続ける。

「別府市は観光都市なので、全体的に大きなダメージを受けています。そんな中でも当社だけでなく別府市全体を盛り上げようと、今年3月にはコロナ収束後をにらみ、神社などから中国の鬼滅ファンに別府をアピールする生配信をするなど、今後の観光業回復に向けた取り組みも始めています。今年秋からテレビアニメの続編も始まるので、そのときにはまた全国からファンが訪れられるようになっているとうれしいですね」

 同じく九州には、県内全域が舞台になったことで、老若男女の地元住民を中心に愛されている作品も存在する。18年と21年4~6月に放送されたテレビアニメ「ゾンビランドサガ」だ。

 ゾンビになって現代によみがえった7人の少女が「存在自体が風前のともしび」となった佐賀県を救うという物語で、ご当地アイドルとして佐賀県を盛り上げる姿が描かれている。佐賀県唐津市や佐賀市を中心に全県が舞台となっており、県内でも声優による数多くのライブやイベントが実施されている。企画協力に「佐賀県」の名前も入っており、舞台選定をはじめ県の協力が入っているのも特徴だ。全国からファンも継続的に訪れているが、特に県内での人気が高まっているという。

 佐賀県庁広報広聴課の近野顕次さん(40)はこう話す。

「アニメが放送されてから、アニメファンのみならず県内の子どもたちの反響が大きかったのを覚えています。18年のアニメ放送開始以降、県内の企業や団体がコラボ商品を発売したり、コラボイベントを実施したりしたことで県内でのアニメの知名度が次第に上がっていき、21年のアニメ2期の放送を通して今では、子どもからお年寄りまで愛される“県民アニメ”になったのではないでしょうか」

 7月の東京五輪の開会式の入場行進でゲーム音楽が使用されたように、日本のアニメや漫画、ゲーム文化は、今ではすっかり幅広い年代に愛されるようになった。3世代にわたって楽しめるものというのはなかなかないだろう。

 高齢者にはワクチンがおおよそ行き渡り、若い世代への普及も時間の問題とみられる。コロナが落ち着いたら、旅行先にアニメや漫画の物語の舞台を付け加えてみるのはいかがだろうか。そうすれば、孫との楽しい旅行にもなるはずだ。(河嶌太郎)

週刊朝日  2021年8月20‐27日より抜粋