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※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 人間は皮膚呼吸をしているので、全身の皮膚を何かで覆ってしまったら皮膚呼吸ができなくなって危険……。そう思っている人は多いはず。しかし、近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師は、それに医学的根拠はないと言います。皮膚呼吸について解説します。

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 その昔、テレビ番組で全身を金色に塗られた芸人が「皮膚呼吸ができなくて死にそうになった」と面白おかしく訴えたことが話題となりました。

 まだ若かった私は笑いながらも「皮膚呼吸ができないのは怖い」と感じたものです。

 その後、皮膚科医として20年近くキャリアを積むようになり、皮膚呼吸という言葉をいっさい聞くことなく仕事をしてきました。

 確かに、全身の皮膚を覆うようにべっとりと金色の塗料を塗られるのは体に悪そうです。

 でも、それだけで具合が悪くなるのだろうか?

 そもそも人間に皮膚呼吸はあるのだろうか?

 病院で患者さんを診続け、皮膚呼吸ができなくて病気になった人なんて聞いたことがありません。

 そこで皮膚呼吸について今回は調べてみました。

 みなさんも学生時代に習ったとは思いますが、皮膚呼吸をする生き物は確かにいます。

 ミミズやヒルなどの小型の生物は、皮膚を通して酸素と二酸化炭素を交換するだけで生命維持が可能です。

 一方、大型の生物は皮膚呼吸では不十分であり、ほとんどの血液の酸素化を肺で行っています。

 人間はというと、皮膚呼吸をわずかにしていると考える学説もあるようです。しかし、呼吸と言えるほどのガス交換ではなく、たまたま皮膚で酸素と二酸化炭素を交換しているだけと考えるのが自然でしょう。

 つまり、先の芸人のように皮膚がべっとりと覆われてしまっても窒息死することはありません。基本的には肺呼吸が妨げられない限り人間は問題なく生きていけます。全身やけどが命に関わるのは皮膚呼吸の問題ではなく、やけどにより皮膚のバリアーが破綻し体内の水分や栄養がとめどなく漏れ出てしまうためです。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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