日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「日本のワクチン接種後の規制緩和の遅れ」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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「もう2年以上、中国にいる両親に会えていなくて辛い。ずっと在宅勤務で、誰にも会わない毎日が続いている。仕事を辞めて、中国に戻ることも考え始めた……」つい先日、大学生の時から日本にやってきて、そのまま日本で働いていた同世代の友人からこんな相談を受けました。
コロナが流行して以降、彼女と会えていなかったのですが、「気分が落ち込んで朝起きることも辛く、食事もほとんど食べていない」と連絡があり、お互いにワクチン接種が済んで2週間以上経過しており、風邪症状はなく、感染のリスクは低いと判断し、急遽、自宅での夕食に彼女を誘いました。
中国では、現時点で入国の際に3週間の隔離が必須とされており、日本に帰国する際も、2週間の自主隔離が必要になります。かなり長期間の休みがないと、帰国は現実的ではありません。オフィスに来るなと言われ、在宅勤務がいつまで続くか分からない中で、仕事をする気すらなかなかおきなくなってきた彼女が、仕事を辞めて帰国するという選択をしようとしているのも、無理はないと感じました。
私も、コロナの流行が始まってから実家のある大阪には一度も帰っていません。落ち着いたら帰ろうと思い、2年以上経過してしまっています。私は、いざとなれば新幹線でも飛行機でも使用して実家に帰ることができます。けれども、彼女は現時点では容易に帰国することができません。クリニックには、渡航のためにPCR検査を希望して受診される方がたくさんいらっしゃいますが、きっと彼女のような決断をして検査を受けにきた方がいらっしゃったに違いないと思うと、胸が痛くなりました。同時に、国民には自粛や我慢を強いる一方で、東京五輪だけは特別扱いというダブルスタンダードな対応に疑問を感じざるをえませんでした。