とはいえ、それでも韓国が少しでも日本よりもマシだったのは、当時のソウル市が江南駅に貼られたポスト・イットを歴史的価値のある財産として保管したことだった。「これはフェミサイドではない、女たち黙れ」という攻撃の声は決して公の声ではなく、政治家たちが率先して、女性たちの恐怖の声を記憶しようと働きかけたのだ。それらのポスト・イットは、2018年8月に私が韓国女性家族部の運営する図書館を訪れたときは、図書館内に展示されていた。匿名の無数の女性たちによる#MeToo、#WithYouのポスト・イットだ。

 一方、日本社会では、メディアが「幸せそうな女性」と報じた後に、「幸せそうな人」と理由を述べることなく書き換えたり、フェミサイドとして大きく報じられることも、政権が恐怖の声をあげる女性たちにメッセージを発することもなかった。それでも8月14日には100人を超える人々が雨の降る新宿駅に集まったという。「もしかしたら私だったかもしれない」というスピーチは途切れることなく語られ、何か起きたときには臆することなく、自分たちの怒りを信頼し、こんなふうに集まればいいんだよね、というような連帯が生まれたようだったと、当日参加した友人たちに聞いた。そんな動きは、まだまだ日本社会では小さいものかもしれないけれど、それはやはり、この社会は私たちの声で変えられるのかもしれないという希望なのだと思う。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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