保坂:ワクチンの供給では「早く打て」「ペースを落とせ」と振り回されました。東京や大阪など感染爆発の集積地に医療資源を集中的に投入することができていない。医療の逼迫に対しても、海外では大規模緊急病床が次々と建設されましたが、日本ではできていません。
政府が打ち出した「入院制限」も大問題です。当初は、中等症以下の患者は原則、自宅療養との方針でしたが、与党内からも批判が噴出しました。中等症でも酸素吸入が必要な患者は入院の対象と修正されましたが、いま流行しているデルタ株は急速に症状が悪化する特徴を持っており、国民と医療現場に大きな不安をもたらしています。
中島:私は、自民党にはもう現状を立て直す力はないと見ています。かつての自民党は国民の批判が集まってくると自浄作用が働きましたが、いまの自民党は「レス・ワース(まだマシ)」の論理で動いているからです。どういうことかというと、自分にとってベストな形を選ぶのではなく、最悪なケースを避けるという選択をしがちなのです。例えば安倍(晋三・前首相)さんにとって自分の後継としてベストだったのは、岸田(文雄・前政調会長)さんだったかもしれない。でも、関係が悪い石破(茂・元幹事長)さんになったら最悪だから、党内がまとまりやすい菅さんというレス・ワースな選択をした。それが1年前の状況でした。
ポスト菅に、東京都知事の小池百合子さんの名前をしきりに挙げる人がいるのは、小池さんだけは嫌という人たちに揺さぶりをかけるための牽制でしょう。実際には、小池さんがいまから新党を立ち上げて衆院選に間に合わせるというのは極めて困難です。ただし、菅政権が倒れるなど乱気流が起きたときは、捨て切れないカードではあります。
保坂:このまま国会を開かずダイナミックに政策転換することができないとすると、自民党は衆院選で大きく議席を減らす可能性がある。前哨戦である東京都議会選に続いて、横浜市長選でも苦戦を余儀なくされています。最大の理由は、争点がIR(カジノを含む統合型リゾート)誘致から、菅首相のコロナ政策への審判になったからです。菅首相がタウン誌の小此木(八郎・前国家公安委員長)さんとの対談で「全面的に応援する」と表明したことで、市民の目には小此木さんが菅首相の分身のように映った。いまの感染爆発と、先ほどお話しした「入院制限」が決定打となり、市民の間に「菅さんに任せてはおけない」というムードが高まり、立憲が推薦する山中(竹春・元横浜市立大学教授)さんの勢いが増したのだと思います。