中島:区長選のとき、バルセロナ市長から応援のメッセージが来ていましたよね。「地方自治を通じて、日本と世界の都市がつながるということもあるんだ」という視点をもらって、それも希望のひとつになりました。
岸本:国政選挙と地方自治、どちらが大事ということではないのですが、「子どもや福祉、環境問題など、自分が関わることで希望が生まれそうなのは地方自治のほうかな」と思ったのは確かですね。かといって、国をあきらめてもいません。有権者としては、絶対にあきらめないのはもちろんです。
中島:岸本さんのお書きになった『水道、再び公営化!』で、パリ市で民営化した水道が大問題になって再公営化するときに、すでに実践していたグルノーブル市がノウハウをシェアしてくれたことを知りました。公共事業にすると変なお金の使いかたがなくなるので、結果として料金が安くなる――とか、とても大事な視点です。「水をどうするか」はあらゆる人に関わる問題。いきなり国政を動かせなくても、自治体の経験が国の方針を決めることにつながるかもしれません。
岸本:「水はコモンズ(公共財)の象徴」なんですよね。同時に、保育園や公園、図書館なども、みんなで運営して使っているコモンズと言って良いと思うんです。なかでも図書館は、とても大事にすべき象徴的なコモンズだと思います。
中島:図書館は誰もが無料で「知」にアクセスできる、素晴らしいものです。
岸本:地域のなかの知の拠点であり、私たちの知る権利を保証するインフラが図書館です。だから図書館を例にあげて考えるとわかりやすいんですが、そこで働く司書さんたちは非正規雇用なんですよ。
中島:やりがい搾取になっていますね。
岸本:練馬の司書さんがストライキを起こそうとして話題になりましたが、本が大好きだから資格をとって、図書館で働きたい人がたくさんいらっしゃる。でも実際には図書館で働く方の多くは非正規雇用です。
中島:人と本をつなげる場所、子どもたちの居場所にもなっている図書館は、とても大切なはずなのにおかしなことです。
岸本:私はコモンズやケアの大切さにこだわりたいんです。たとえば杉並区の自校式の学校給食は素晴らしいんですが、調理業務の大半は委託なんですよ。私が子どもの頃は「給食のおばさん、おじさん」が作っていたけれど、今は企業で雇用された方が作っています。
中島:図書館や学校・病院は、みんなが使い、そこで暮らす人すべてが恩恵を得るものです。保育園を直接、使っていなくても、地域にあるから働ける人がいて、まわりまわって暮らしている人たちに還元されていく――コモンズのありかたこそが大切ですね。
岸本:ケアに関する仕事――保育士、介護福祉士、社会福祉士、図書館司書、学校の先生などは、人と向き合う大事な職業です。同時にCO2をほぼ出さない仕事でもあるんですよ。社会でとても重要なケアの仕事が非正規化され、コストカットの対象になってきたのは大きな問題だと思いますし、今の社会を特徴づけている傾向です。さっき中島さんがパリ市の水道についておっしゃったように、社会にとって大切な仕事について、働く人達や利用する人、そこで暮らす人がみんなで考えていくことを、地方自治の場から始めていきたいんです。