岸本聡子・杉並区長(左)と作家の中島京子さん(撮影/写真映像部・加藤夏子)
岸本聡子・杉並区長(左)と作家の中島京子さん(撮影/写真映像部・加藤夏子)
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 これからの地方自治と未来、分断の行方などについて、岸本聡子・杉並区長と作家・中島京子さんが語り合った。本誌インタビューでは掲載しきれなかった、2人の思いを紹介する。

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問題を「課題」と捉えること

中島:この10年くらい、「いいことがない」というか、未来を明るく考えられませんでした。選挙も、気分としては負け続けでしたし。

岸本:そう感じている人は多かったと思います。

中島:でも今回、岸本さんが僅差であっても当選してくれたことで、希望を感じました。同じ気持ちになった人は区民に限らず、たくさんいると思います。岸本さんの本、『私がつかんだコモンと民主主義』や『水道、再び公営化!』を読んだとき、「未来があるかもしれない」と励まされたんですよね。さらに杉並区長となった岸本さんが、区の仕事にやりがいを感じているとうかがって、嬉しくなりました。杉並区民かどうかに限らず、「未来を考えるための明るい要素」ができたと感じています。

岸本:中島さんがおっしゃった、「希望」や「未来」は、キーワードだと思います。だって、今は本当に暗い時代じゃないですか。

中島:海外では戦争も起こっていますし。

岸本:それにコロナも続いています。10年前には東日本大震災があり、原発事故も起こりました。この10年は本当に酷い時期だった。国際的にも2008-9年にはリーマンショックが起こり、世界的にも危機の連続だったんですよね。

中島:ヨーロッパでもイギリスのブレグジットがあって、EUが壊れていくようでもありました。各国で、極右勢力が台頭してきましたし。

岸本:ロシアによるクリミア併合もあり、とうとう戦争にまでなってしまった。しかもこの3年間はパンデミックで、未曾有の経験です。

中島:世界中がどん底にいるような感じですよね。

岸本:私、子どもたちのことが本当に心配なんです。今、10歳の子どもは、うまれてからずっと大変だった歴史しか知らない。20歳の人だって、成長期の記憶が暗い10年しかないわけです。

 私は48歳なんですが、大学を卒業した頃から小泉純一郎さんによる新自由主義の労働改革が始まって、働きたくても不安定な非正規雇用が常態化してしまいました。私の世代も子どもたちも希望がない中で生きてきたんですよね。とはいえ希望がないことについては、自分の世代の責任も非常に強く感じています。私たちの世代にも希望は必要だけれど、若い人たちがもっと希望を持てるような社会であってほしいんです。

中島:世界的に問題が多いですが、日本はとくにジェンダーギャップ指数が低かったり、福島第一原発の廃炉も目処が立たないなど、環境問題も深刻です。

岸本:問題が山積していますよね。でも、一方で希望と課題は結びついていると思うんです。 

中島:問題を課題としてとらえなおす――ということでしょうか。

岸本:はい。女性の生きにくさの問題や気候変動問題は「危機でもあり希望でもある」んですよね。そこをつないでいくのが政治の役割だと思います。日本はジェンダーギャップ指数が146カ国中116位だけれど、同時に「変えていける」という希望があるじゃないですか。実際に変わらなくてはいけないし、多くの人が変わりたいと思っている。それこそが力だと思いますし、気候変動問題も同じです。そうした課題を杉並区に重ねていったらどうなのかな?と、思うと、ワクワクしてくるんですよ。

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