岸本聡子・杉並区長(左)と作家の中島京子さん(撮影/写真映像部・加藤夏子)
岸本聡子・杉並区長(左)と作家の中島京子さん(撮影/写真映像部・加藤夏子)

中島:ここ数年、私がショックを受けてきたのは「同じ時代に生きて、同じ経験をしてきたはずなのに、見えている風景がまるで違う人がいる」と、感じる出来事が増えたことです。まるでパラレルワールドを生きているようで、そうした人と対話ができるのだろうか、と、考えるようになりました。

岸本:先ほど「暗い10年があった」と言いましたが、その期間は「分断の10年」だったのかな、と思うんです。

中島:東京オリンピックや安倍さんの国葬についても、まさに市民が分断されましたね。

岸本:杉並区もまさに、児童館の廃止や道路の拡張をめぐって、分断が起こっていました。いつも丁寧な議論はありませんでした。決まってから発表して強行する。議会もその方針を認めると、行政(役所)は執行機関ですから、実行せざるをえません。リーダーシップの問題があるんです。

中島:区長さんの権力は大きいんですね。

岸本:やろうと思えば、行政というのはものすごいスピードで進めることができます。けれど、ゆっくりとみんなで議論することが大事じゃないでしょうか。「確かに子どもの数は減っているね」「居場所の形は変わったほうがいいかもしれない」「じゃあどんな形がよいんだろうか」、いろいろなファクターがあるなかで、私たちは何を選び取りたいのか、対話を重ねることが大切です。話し合い、決めていくためにはみんなが情報を持っていなくてはできません。簡単な正解はないかもしれないけれど、地道なやりかたが、中島さんがおっしゃる「パラレルワールドの進行」を止めることになるんじゃないか、と思います。

中島:そうですね。

岸本:問題は、たとえば「道路の拡張の是非」じゃないんですよ。「どういう道路が必要なのか」をみんなで話すことが大事なんです。そうした当たり前のことを言って、とくに若い人が意見を言う場があることが対話につながるし、分断を乗り越えていくんじゃないでしょうか。

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