中島:今、うかがっていて、マイナンバーカードのことが思い浮かびました。利便性や懸念について具体的な説明がないまま、いきなり「保険証と一体化します」と、結論だけが発表されましたよね。デジタル化することでメリットがあるのかどうか、自分が納得できないまま強引に推進されると、東京オリンピックや国葬が強行された記憶から、何かが隠されているんじゃないか、と疑心暗鬼になってしまう。「利権があるのか?」とか。
岸本:オリンピックもあとから汚職が出てきましたからね。 マイナンバーカードに限ったことではありませんが、国家と個人の間には信頼関係が必要です。その信頼を作るために、国家は説明を尽すために、物凄く努力をしなくてはいけないはずなんです。権力を持っている者は、どのレベルであっても説明し、対話し、そのための土俵を作り続ける責任があります。それができない人に権力をもたせ続けてはいけないんです。
中島:そうですよね。これまであまりに説明なしで「閣議決定で決まった」と大事なことを決めてきた人たちが言うことを、簡単に信用はできません。その、有権者の不信感を理解せずに強行していくって、もう独裁政権ですよね。
岸本:問題は、そうした状況について「おかしい」と怒る人がマジョリティではないことです。「決まったなら仕方ない」といったあきらめが日本に蔓延していて、その人達は政治に関心を持てず、選挙にも行かなかったりする。さまざまなレベルで分断が起こっていて、たとえば労働者も分断されています。区役所で働く人も4割が会計年度任用職員という名の非正規雇用の人達です。正規職員の補助的な仕事で給与体系が異なる有期雇用です。しかし、例えば人手が足りてない職場では非正規職員でも能力のある人は正規職員と同じような仕事をしていることもあると聞きます。そういう問題も具体的なレベルで解決したいと思っているんです。
中島:岸本さんの行動力は、それこそ希望です。所信表明演説で「杉並区版パートナーシップ制度の年度内の条例化を目指して準備を進めていきたい」と話していらして、そこに事実婚も入っていたのが、とても嬉しかったんです。私とパートナーは事実婚なんですよ。
岸本:そう、今日は家族についてもお話したいな、と思ってきました。中島さんが小説でお書きになってきた、家族の形についてもお聞きしたかった。私も家族のありかたについて考え続けてきたので、次にお会いした時はぜひ、お話させてください。
(構成 ライター 矢内裕子)
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