それから、『男性が女性だと言って、オリンピックに出場し、金メダルを獲るのはどうか』という疑問も出ました。トランスジェンダーの女性をどのように参加させるかというのは、一つのテーマではあるが、ルール決めの問題であって、この法案とは別次元の話」
ひらたくいうと、どんな基本理念を定めようとしているのか。
「同性を好きな人もいるし、自分の性別が分からない人もいる。男性に生まれたけれども心は女性、女性に生まれたけれど心は男性、いろんな人たちがいますよね。その人たちに対する、国民全体の理解を深めようという法案なんです。
そんなことを法律にする必要がないという考えの議員もいらっしゃったと思うので、今度提出する時には、丁寧に説明をして、また挑戦をしようと思っています」
稲田氏のこうした言動は、党内や一部の支持者からは「変節した」、「左翼になった」とも批判された。 いいか悪いかは別として、稲田氏自身の主張が変わったことは確か。その理由を知りたいところ。
「転機になったのは、5年前に就任した防衛大臣の時に『日報隠蔽問題』でたたかれて、2017年に辞任したこと。あの時はつらかったし、こたえました。 それまで大臣を3回も務め、政治の世界ではあまりにも順調に進み過ぎていたのです。
辞任直後は、何をしても楽しくなかった。家にいても気力がなくなり、いつまでもソファーに座ってボーっとしていました。挫折ですよね。
本当に心が折れていたんですけど、そんな時、作家の中谷彰宏さんが送ってくれたエッセー『なぜあの人は心が折れないか』を手にとったんです。 そこには、『心は自分が折らなければ誰も折ることができない』ということが書かれていました。あっそうか、自分で心を折ってちゃダメなんだなと思って、立ち直るきっかけになりましたね」
現在では挫折時のことも、触れられたくない過去ではなくなった。
「防衛相時代の過去もたびたび蒸し返されるんですが、蒸し返されたらされたで、またちゃんと説明すればいいと思っています」