双子の人形を使ってのバス乗車の研修。タラップが組み込まれているバスであれば、ツインベビーカーでも負担なく乗車できる。困ったときは乗務員に「助けて」と声をかけることも大切だ(写真・あいち多胎ネット提供)
双子の人形を使ってのバス乗車の研修。タラップが組み込まれているバスであれば、ツインベビーカーでも負担なく乗車できる。困ったときは乗務員に「助けて」と声をかけることも大切だ(写真・あいち多胎ネット提供)
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 双子ベビーカーを伴ってバスに乗るには、依然として高いハードルがある。多胎育児の当事者が日々直面する問題に社会はどう向き合うべきか。AERA 2022年11月28日号の記事を紹介する。

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 街中で双子の赤ちゃんを見かけると、つい頬が緩む。だが、かわいさの裏側には想像を絶するハードな日常がある。それを社会に投げかけたのは、

「バスに乗れなくて泣いた日」

 というタイトルがついた一つのブログ記事だった。

一人で持つのは難しい

 投稿したのは、元全日本女子バレーボール選手の大山加奈さん(38)。2021年に出産した双子の女の子を連れて都営バスに乗ろうとしたが、ドアを開けてもらえず“無視”されたこと。次のバスでも、乗務員がベビーカーの乗降を手伝おうとしなかったこと。乗り合わせた高齢女性の助けで降ろすことができたが、乗務員に「迷惑な存在だと思われた」ショックで涙が止まらなかったこと。過去にも東急バスで悲しい思いをしたこと──。双子ベビーカーで公共交通機関を利用する難しさを吐露した。

 ブログはSNSで瞬く間に拡散。双子ベビーカーの大変さに共感する声があふれた一方で、大山さんのことを「わがまま」だと批判する声も多かった。

 今回の騒動について東京都交通局に問い合わせると、最初のバスでは前扉ではなく中扉の近くに大山さんがいたため気づかなかったと回答。乗務員のサポートがなかったことについては、「他のお客様のお手伝いもあり、スムーズに乗車されているように見えた」と説明し、「座席のはね上げや固定の補助を行っておらず、適切ではなかった」とした。

「双子を乗せたベビーカーは20キロくらいの重さになるので、一人で持ち上げるのは難しい」

 今年双子の女の子を出産した近畿地方の20代女性はそう話す。病院に行くにはバスを使うしかないため、母親に仕事を休んでもらい、大人2人がかりで対応している。他にも、移動するときは階段を避けたり、人通りが少ない道を選んだりと工夫する。車がないため、公共交通機関を利用するしかない。

「だからこそ、階段やバスを使おうとしているときはよっぽどの事情があるんじゃないかなと考えてほしいです」

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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