乗務員が抱く心苦しさ

 双子ベビーカーをめぐる問題は、今に始まったことではない。18年には都営バスの乗車拒否が問題になり、東京都は21年にルールを改定。2人乗り用のベビーカーを折りたたまずに乗車できるようになった。声を上げることで社会は変わってきたものの、依然として課題は残る。

「あいち多胎ネット」副代表理事で自身も双子を育てている松本彩月さんは、2年前に名古屋市交通局に双子連れでのバス乗車について話を聞きに行ったことがある。その際に、複数の乗務員が過去にベビーカーに誤った対応をしたかもしれないと不安を抱いていたことを知った。

「もしかしたら自分が“乗車拒否”をしてしまったのではと心苦しく思っていたのかもしれません。多胎育児は本当に大変です。ただ、バス会社が悪いという形にするのではなく、『こうすれば乗れるんだね』ということを当事者から発信して、社会に知ってもらうことも必要です」

 バス特有の難しさもある。電車と異なり乗務員が一人で運行することが多いため、今回のように「気づかない」可能性もある。また、先に車いすやベビーカーが乗っている場合は乗車できなかったり、混雑時には折りたたみを求められたりすることもある。

「この問題は『答えがない』というのが答えかもしれません。多胎育児に関して、その時ごとに議論を積み重ねていくことに大きな意味があるのではないでしょうか」(松本さん)

 17日、大山さんは東急バスと意見交換会をしたとブログで報告。相互理解が深まったとつづった。

 先の20代女性も言う。

「双子の親に限らず、普通のことをするのが難しい人を見たときに何かできることがないか、と自然とみんなが思ってくれる優しい社会になってほしい」

(編集部・福井しほ)

AERA 2022年11月28日号

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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