まさに、逃げるような退任劇だった。菅義偉首相の自民党総裁選不出馬が報じられた3日、13時からの囲み取材では「総裁選よりもコロナ対策に専念する」とだけ語り、記者の相次ぐ質問を振り切った。この1年の菅政権とは一体何だったのか。ほぼ何も説明もせず、首相の座を放り出した菅氏とは、結局、どのような人物だったのか。官房長官時代から「天敵」として菅氏を鋭く追求してきた東京新聞の望月衣塑子記者に聞いた。
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――急転直下の辞任劇でした。内閣支持率が危険水域に入り、「菅おろし」の声も大きくなってはいましたが、総裁選直前にこのような形で辞任するとは想定外でした。どう受け止めましたか。
世論の逆風が吹く中で総裁選モードに突入しましたが、途中までは実に菅さんらしいやり方だったと思っていました。
8月30日に下村博文政調会長に対して「(総裁選に)立候補するなら政調会長を辞任しろ」と迫り、出馬を断念させました。さらに岸田文雄前政調会長が出馬を正式表明し、「党役員を刷新する」と明言した途端に、力技で二階俊博幹事長を交代させる方針を打ち出し、総裁選の「争点隠し」を図りました。そして総裁選前に党役員人事を行って解散総選挙に打って出るという「禁じ手」のようなことまで模索していた。
どんな状況でも、人事権を行使して、なりふり構わずに自分の権力を最大限に見せるよう執着している姿は、いかにも菅さんらしいと感じていました。
ただ、リークも含めて解散総選挙の腹案がマスコミに漏れ、自民党内部から想像以上の反発が上がったあたりから、今までとは様相が違ってきました。すぐに菅さんは「今は解散できる状況ではない」と火消しに走り、小泉進次郎環境相と5日連続で会談して意見を仰ぐなど、迷走の度合いを深めているように見えました。
この状況下で、小泉さんしか進言してくれる人がいないのかと不思議に思いましたし、そうだとしたら相当な“菅離れ”が進んでいると感じました。しかし表面上は強気の姿勢を貫いていたので、総裁選から降りるという選択をしたのは驚きました。よほど、助け舟がなかったか、安倍晋三前首相や麻生太郎財務相らの「菅おろし」の圧力がすさまじかったのだろうと察します。