わたしは英語を日本語に翻訳する仕事もしているのですが、その際頭を悩ませるもののひとつが、このカタカナ表記なのです。グリルチキンのように原語に忠実でない表記、なによりグリルとグリルドのように一般的な表記が複数存在する場合は、日本語に訳すとき一体どれを採用すべきかと考え込んでしまいます。たとえ原語に忠実でなくとも、「スライスハム」くらい一般的な表記だったら安心して訳語として採用できるのですが。おそらくWANIMAのみなさんも悩んだ末、より一般的な「グリルチキン」のほうを採用したのでしょう。そして、英語表記も日本語に合わせてGrillと原形に変えたのかもしれません。

 こうして日本語独特の表記を採ると、いいことがあります。グーグルで“Chopped Grill Chicken”と検索すると、検索結果がWANIMAの曲で埋め尽くされるのです。もしこれが“Chopped Grilled Chicken”と一般的な英語表現にしていたら、直火焼き細切れ鶏肉を使った英語圏のレシピがぞろぞろ上位にきて曲の情報はなかなか出てこなかったのではないでしょうか。かつてディズニー映画の「Up」「Tangled」「Frozen」が公開されたとき、タイトルがごく一般的な単語だったので検索結果上位に映画の情報が来なかった、だから後年は「Moana」や「Coco」など固有名詞をタイトルにしたという話を聞いたことがありますが、それと同じ戦略です。

 そう考えると、「Chopped Grill Chicken」は実によく練られた曲名だと思われます。今こうして原稿をワードで作成している今、Grillの下に赤い波線が引かれて「もしかしてスペルミスでは」とマイクロソフトに諫められるのですが、そんな画一的な指摘は無視することにします。とはいえ個人的に、「チョップド・グリル・チキン!」と歌うことはできないかなあ。やっぱり、原語に忠実じゃないじゃんと気になってしまうのです。めんどくさいですね。

〇大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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