「人間の感情って複雑ですよね。“愛憎”とはよく言ったもので、愛でも憎しみでも、対象に執着することは、その人が一日一日を生きる力になる。だから、もしかしたら一概に、愛だけが正義とは言えないのかもしれません。映画の中では、登場人物すべての強さと愚かさの両方が描かれていて、私自身も、人間というものについて深く考えるいい機会になりました」

 映画の中で忍は、「長崎が何か悪いことしたか?」「肌の色が違ったらこうはならなかったの?」と叫ぶ。

「戦争から76年が経って、もう、原爆が広島や長崎に落ちたことを知らない人もいるかもしれない。この映画は、ロサンゼルスでも公開されることが決まっているのですが、日本人から見た原爆の悲劇がきちんとメッセージとして作品の中に織り込まれています」

 そう言ってから、「世界中の人に見てほしい。とくに若い人たちに」と続けた。

 映画のテーマは重厚だが、キャストの豪華さ、美術セットの再現率の高さなど、娯楽としてもたくさんの見どころが用意されている。ほとんどメイクをしていない黒谷さんの表情の美しさにも目を奪われる。

「あ、でもノーメイクではないですよ(笑)。戦後の長崎にいても違和感がないよう最小限のメイクにしましょうということだけ確認して、あとはメイクさんにお任せしました。演じているときは、奇麗に映りたいなんていう自意識はどこかに消えてしまっていたし」

 そう言って微笑む黒谷さんだが、撮影のときは、身体全体を使って自由に動き、生来の表現力を発揮していた。映画の中の忍とは別人だが、どちらも魅力的に見えるのはさすがである。そして、彼女が陽気であることにも救われる。

「人にどう見られるかはあんまり気にしないほうかもしれない。お仕事も、『こういう役がやりたい!』とか『いずれはこういう立場に』とか、とくに考えたことはないです。お芝居だけじゃなくて、芸能の仕事は全て人との出会いでつながっていくものだし、例えばバラエティーで引き出される自分は、CMやお芝居で引き出される自分とはまた違ったりする。新しい自分との出会いもあるので、お芝居以外のジャンルの活動も積極的にチャレンジしたいです。いろんなことをやりたいし、いろんな人に出会いたい。いろんな自分を発見したい。だから、このお仕事は嫌というのはない。すべての経験が、いつか役に立つだろうなと、楽観的に考えています」

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