秘密裏に制作が進められていた本作だが、実は沢田はコロナ禍以前のライブのMCで「1年がかりの大仕事がある」とファンにヒントを与えていた。その後、コロナ禍で活動が停滞したことから「あの話は立ち消えになったのか?」などと憶測を呼んだが、沢田自身も歯がゆい思いがあったのだろう。クランクアップの挨拶では「本当にながい、ながい、ながい撮影でしたけれど、本当の意味で超大作になるように期待しております。本当にお世話になりました」と語り、関係者に感謝を伝えたということだ。
なお沢田が起用された経緯については「中江監督やプロデューサーが『沢田研二さんなら、この水上勉さんのイメージを体現できる』と思われたそうです。実際、『土を喰う日々』に掲載されている水上さんのお写真を見ると、今の沢田さんにとても雰囲気が似ていらっしゃいます」とのこと(前述の広報担当者)。
ストイックさ、独特の繊細な感性を兼ね備えた水上と、孤高のミュージシャンとして時流におもねらない沢田。年代も活動するジャンルも違う2人だが、その内面にはどこか共通するものがあるのかもしれない。上映は少し先だが、時代を超えて愛される名著と水上の精神がどのような形で映像化されているのか、楽しみにしたい。(中将タカノリ)