木村:はい。ただし、そういう人たちが言っていることをこまかく見ていくと、すべての条文を「一字一句変えてはいけない」というよりは、「9条護持」を主張している場合が大半です。「9条を変えよう」と言っているのが「改憲論」なので、そんなに複雑な対立があるわけではないんですよ。
林:いろんなメディアの言論を読んでいると、ときどき、世の中にものすごい対立があるような気がします。改憲派のメディアでは、すぐにでも国民投票を、というような言説もみられますよね。
木村:改憲論には歴史があります。最初の改憲論は「もう少し重武装して、対米自立を果たしたい。そのために9条を改正しよう」という主張だったんです。ただ、その路線はあまり国民の支持を得られなくて、結局「9条プラス日米安保」という安全保障方式が国民の支持を得るようになりました。その結果、改憲派はどんどん観念的になっていって、「対米自立」という主張はあまりされなくなった。そして一部には、護憲派に対して攻撃的になるグループも現れてきたんですね。
林:一方で、一部の護憲派は、「9条を守らなければ必ず戦争が起こる」と強く主張しています。彼らの中にも、攻撃的なグループはいます。そういう人たちについては、どう思われますか。
木村:9条というのは、自衛隊の海外派遣をきわめて強く限定する条文なので、9条を変えて海外での活動を拡大すれば、日常用語で言うところの“戦争”に自衛隊が駆り出される可能性が高まる。これが、護憲派のおもな主張ですよね。その背景には、第2次世界大戦の遺恨がずっと残っていると思うんです。
林:はい。
木村:そのときどきで、たとえばアフガニスタンへの自衛隊派遣反対とか、イラクへの派遣反対とか、自衛隊法の改正反対とか、さまざまな形をとるんです。ですが、いちばん奥底にあるのは、第2次世界大戦における日本の政治の失敗によって大量の人が死んだ、ということへの遺恨、そして警戒心なんです。改憲派も護憲派もそれぞれ、その言葉の背後に何があるかを、理解しておく必要がある。そうしないと、議論がどんどん観念的、感情的になっていってしまう。とくに強い調子で自説にこだわる人たちは、改憲派であろうと護憲派であろうと、いずれも狂信的に見えてしまう、と私は理解しています。