俳優・ムロツヨシさんが、9月23日公開の映画「マイ・ダディ」で初主演を務める。役者として「食べていける」と思えたのは30代後半。役者であることをやめなかった人生には、いくつもの転機があった。AERA 2021年9月13日号に掲載された記事を紹介する。
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――初主演を務める映画「マイ・ダディ」が9月23日から公開される。演じるのは、中学生の娘を一人で育てる、小さな教会の牧師、御堂一男だ。娘が白血病と診断された一男は、彼女の命をつなぐため、一人奔走(ほんそう)する。脚本を読み、「この世界の中で生きてみたい」と出演を決めた。
一男を演じるにあたり、「説明をするのだけはやめよう」と自分に言い聞かせて、撮影に臨みました。今までのムロツヨシで培ったものは、すべて横に置いて、いまのムロツヨシは現場で何を感じるのか、自分と向き合う時間を大切にしよう、と。今までは必ず「この作品で自分は何をしたいのか」を考え、プランの一つとして持って現場に臨んでいましたが、今回はそうした選択肢をまったく持たなかった。いつもより感情を開いた状態でいることを意識しました。
――娘と自分は血がつながっていないことを知り、数多の試練が一男に降りかかる。だが、ムロツヨシが大切にしていたのは、意外にも娘や周囲の人々と過ごす「日常のシーン」だった。
物語のなかでは、いくつもの事件やサプライズが起きますが、物語が大きく動き出す前の日常のシーンこそが一番大切で、一番考えなければいけないことではないか、ということに、撮影2日目に気づいたんです。ドラマが起きる前には日常があって、日常には過去がある。日常というものを安易に考えていたなと思い始めたら、本番の途中で「このままじゃダメだ」と感じ、撮影も途中で止めてもらいました。スタッフの方々は「なんだ、なんだ?」となっていましたけれどね(笑)。でも、“何げない日常”を演じるって、言ってみれば「無意識的行動を意識的行動で行う」ことなので、なかなか難しいんです。自分のなかの大きな壁でもありました。
――一男の娘を演じる中田乃愛の撮影には、自分が出演しないシーンであっても、できる限り立ち会うようにしていた。