『ドーパミン中毒 (新潮新書)』アンナ・レンブケ,恩蔵 絢子 新潮社
『ドーパミン中毒 (新潮新書)』アンナ・レンブケ,恩蔵 絢子 新潮社
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 皆さんの中で、何かの依存症に陥っている人はどのぐらいいるでしょうか? 「自分はドラッグなんてやらない」と言い切る人もいるかもしれませんが、今の時代、依存を引き起こす原因は薬物だけとは限りません。

 「今日、私たちにとって強い報酬刺激となるものの数、種類、効能の増え方といったら愕然とするほどだ」(同書より)と警鐘を鳴らすのは、『ドーパミン中毒』の著者アンナ・レンブケ氏。食べ物、ニュース、ギャンブル、買い物、ゲーム、電子テキスト、YouTube、Twitter......。私たちに快楽をもたらすものは身の回りに山ほどあります。こう考えると、何か一つぐらいは皆さんにもやめられない依存物質があるのではないでしょうか。

 科学者が、ある行動の依存性を測る基準として用いるのが、脳内の神経伝達物質のひとつである「ドーパミン」です。これは快楽や幸福感につながるときに出るものだとわかっており、「報酬が得られた快楽」よりも「報酬を得ようとする動機」のほうに大きく関係しているそうです。

 さらに、快楽と苦痛は脳内の同じ部位で処理することも確認されています。快楽と苦痛はシーソーの両極のようになっており、快楽を感じると、それを水平へと引き戻そうとする力が働き、シーソーが苦痛の側に傾くため、より大きな快楽を得ようとして、私たちはさらなる刺激を必要とするのです。それが長期的かつ大量になると、快楽と苦痛のシーソーは最終的に苦痛の側に偏るようになるといいます。

 同書は、そんな「報酬の神経科学」をわかりやすく解説し、快楽と苦痛の関係をバランスよくすることを目的とした書籍です。重度の依存症から抜け出す道を見つけた人々の経験談も豊富に記されており、私たちが過剰摂取に陥らないための防衛術を学ぶことができます。

 精神科医でスタンフォード大学教授のレンブケ氏ですら、実はある依存症であったことが同書で明かされています。40歳になったころ、彼女はロマンス小説『トワイライト』をきっかけに、どんどんと過激な官能小説を求め、日常生活に支障をきたすほどにハマっていったのです。私たちが依存症に陥るのは思っているより簡単なことで、身近なもののようです。

 自身の経験も含め、レンブケ氏は同書の最後で「シーソーの教訓」という10のアプローチを記しています。中でも難しいのが「苦痛の側に力をかける」「徹底的な正直さを持つ」といった、「苦痛の追求」かもしれません。私たちの不安の原因がなんであれ、そこから逃げるのをやめ、むしろ直視することで道は開けるとレンブケ氏は伝えます。

 快楽に身をゆだねることが簡単な時代だからこそ、それとどのように付き合い、距離を保つかは悩ましいものです。同書は、依存や中毒との関係を省みる、よい機会を与えてくれるかもしれません。

[文・鷺ノ宮やよい]