社会運動に詳しい立命館大学の富永京子准教授は「一連の絵画襲撃事件では、行き過ぎた抗議が環境問題そのものから離れ、注目を集めることを自己目的化しているのではないかという議論はあります。これは社会運動の報道にも原因があります。政策提言や学習会も環境運動の中では数多く行われていますが、メディアは過激な行動のみを報じてしまいます。そのため、より行動を目立つものにしなければ注目が集まらないと考えられている点にも目を向ける必要があります」と話す。

 一方、過激なパフォーマンスが目立つ欧州で暴力的な行為に頼らず共感を勝ち得た例もある。

 コロナ禍によって厳しい行動制限が敷かれていたオランダで今年1月19日、美術館やコンサートホールでヘアカットやネイルアートをするパフォーマンスが繰り広げられた。美容院やネイルサロンの営業再開が許可されるなか、劇場や美術館、映画館といった文化芸術施設の再開が依然、禁止されたままであることへの抗議だった。

 美術鑑賞やコンサートはダメでも、そこで髪を切り、爪にアートを施す業務なら許されるのか?そんな痛烈な皮肉が込められていた。

 管弦楽団の生演奏をBGMにヘアを一斉にカットする光景は話題となり、ブルームバーグをはじめとする各国メディアがニュースを流した。結局、オランダ政府はこの6日後に文化芸術施設や飲食店の営業再開を認める発表をした。

「北風と太陽」のエピソードを引くまでもなく、時には違ったアプローチが有効なこともある。(本誌・佐賀旭)

週刊朝日  2022年12月2日号