デルタ株が猛威を振るう中、薬局でも見かけるようになった抗原検査キット。PCR検査との違いや、使い方の注意について専門家に聞いた。AERA 2021年9月20日号から。
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大阪府のパート女性(54)は、8月20~22日に新潟県湯沢町の苗場スキー場で催された「フジロックフェスティバル」に観客として参加した。3日間の来場者数は延べ3万5千人という国内最大級の野外音楽イベントだ。
「周囲は全員マスクを着け、不用意に騒ぐ人もいませんでした。密にならないよう足元のポイント表示に従って距離も確保していました。でも自宅に帰ってから、万一感染していたら周囲に迷惑がかかると思い、自主的に抗原検査をすることにしたんです」
女性はインターネットで千円ほどの抗原検査キットを購入。結果は陰性だった。それでも不安を払拭できないという。
「ちゃんとした商品なのかな?という懸念がずっと残っています。ネットではいろんな抗原検査キットが売られていて値段もまちまちですし、『研究用』と書かれていたので……」
抗原検査は、検体に新型コロナウイルスに特有のたんぱく質(抗原)が含まれているかを試薬の色の変化でチェックする。30分程度で判定結果が出るため、自宅や職場などで広く活用されている。
■市販品はすべて未承認
試しに、大手ネット通販サイトで「新型コロナ」「抗原検査キット」とキーワードを入力して検索すると、数千円の「簡易キット」がずらりと表示された。「8分判定」「変異株対応」「唾液検査」といったPRメッセージが並ぶ。
だが、こうした市販品の購入や取り扱いには「注意も必要」と話すのは、日本臨床検査医学会の新型コロナウイルスに関する委員会の委員長を務める長崎大学の柳原克紀教授だ。
国が「診断用」と承認した抗原検査キットは28種類。これらの販売先は医療機関や自治体に限定されている。一方、未承認でも「研究用」としての販売は認められている。このため市販品はすべて未承認ということになる。中には、国の承認を得ていると偽って表示していたケースも。消費者庁は今年3月、抗原検査キットを販売する2社に景品表示法違反(優良誤認)の恐れがあるなどとして行政指導を行った。
とはいえ、未承認だからといって粗悪品とは限らない、と柳原教授は言う。
「国の承認を得るには治験が必要で、治験を経ていないものは研究用の扱いになります。しかし、研究用にも精度の高いものがある。この見極めが難しい。つまり、市販品はピンキリなんです」