「こうしたとき重要になるのは『内省と対話』です。対話の場として、学生にとって寮は大事だと考えました。また、寮生活では互いに勝手がわからず、時にはいさかいなども起きる。『自分はどうあるべきか』を考えざるをえなくなり、それが成長の起点となりバネになる」
新潟県出身の佐藤菜緒子さん(18)は中学生のころから地方創生に興味があり、地域のプロジェクトにも携わってきた。安定した看護の道との間で悩んだが、好きなことを仕事にしたいと、国公立大の合格を蹴って同学部に入学した。
「寮ではいろいろなタイプの人と生活を共にします。どうしたら相手の意見を汲みつつ、自分の思いを伝えられるか、考えることが多く、勉強になります」
■圧縮された人間関係
阿部拳太さん(19)は、高校のときから起業を夢見てきた。だが、寮には自分より先を行く人たちがいて刺激になっている。
学生にとって、伊藤さんや実務家の教員たちとのなにげない会話も貴重だ。「リアルな社会」を知る、そのライブ感に「大学に入って初めて勉強を面白いと思うようになった」という学生もいた。伊藤さんは言う。
「コロナ下の寮生活では感染防止対策も大変で、制約も多いですが、学生たちは圧縮された人間関係の中で大きく成長しています」
人は人の中でこそ育つ。コロナ後の大学教育では、学びのコミュニティーを「いかに設計するか」がより重要になってくるのではないだろうか。コロナ下で歩み始めた二つの寮がそう示唆する。(編集部・石田かおる)
※AERA 2021年9月20日号より抜粋