指導した北島康介選手を始め、東京五輪で1大会2個の金メダルを獲得した大橋悠依選手など、数々の競泳選手を育てた平井伯昌・東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第81回は、「待つ能力」。
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大橋悠依は私が教えてきた選手で3人目の五輪金メダリストです。高校生のとき日本のトップに立った北島康介、萩野公介とは違って、滋賀・草津東高校時代の大橋のインターハイの最高順位は3位で、目立った成績は残していません。
大橋が高校2年のときに出たジャパンオープンの泳ぎを見て、大きな可能性を感じました。女子200メートル個人メドレーで予選9~16位が争うB決勝で1位になりましたが、大きな泳ぎでよく水に浮いていた。フロート(浮き)とレングス(泳ぎの長さ)が、ほかの選手とは比べものにならないくらいよく見えました。
手足が長くて、水をとらえる才能がある。五輪でメダルを狙える将来性を感じましたが、線が細いので、大学の後半から社会人になって伸びてくる、と見ていました。その年の9月、岐阜国体の前に大橋が所属する彦根イトマンスイミングスクールに行って、奥谷直史コーチと話をしました。大橋が本格化する時期について同じ意見でした。
高校3年のとき東洋大学水泳部に勧誘しました。本人と会話をしたとき、ものごとをちゃんと考える選手だな、という印象を持ちました。繊細でなんとなく頼りないところもあったので、まずはみんなと一緒に練習して、その中で力をつけ、これから世界と戦えるという準備が整ったときに個別の強化に移っていく、というプランを考えました。
水泳部以外の大学生活も大切にして、心技体のバランスが取れた成長を遂げてもらいたい。その通りに成長曲線を描いたわけですが、高校までハードな練習を経験していなかったので、大学1年のときは朝は陸上トレーニングだけにするなど個別対応で順応させていきました。