雨の中、目を凝らすと『ラスカル』調のぬいぐるみが微かに震えている! え!? ぬいぐるみが動いとる!! こわごわ近づいてみる。どえ!? ぬいぐるみがお掃除ロボットをペロペロ舐め回しとる!! 腰を抜かしそうになる私。そうか、そうなのか、お前らいつの間にかそんなに愛し合う仲になっていたのか。動かないはずのぬいぐるみに魂が宿るほどの想い。
「……逃げな」。しゃがんで呟いたが、「彼」は微動だにしない。一方、一心不乱に「彼」を舐めていた「彼女」は私に気づくとパッと駆け出し、離れたところで「ニャー」と鳴いた。「彼」の脇腹あたりには『銀のさら』とある……。どうやら私の居ないあいだに家族は出前のお寿司をとったらしい。「野良猫が舐めるから寿司桶は朝に出さなきゃダメだ!」と言いながら、私は缶ビールの封を開ける。『ルンバ』的なアイツと目が合ったのでスイッチを押すと「夜はうるさいからやめてね!」とカミさんに叱られた。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめた最新エッセイ集『まくらが来りて笛を吹く』が、絶賛発売中
※週刊朝日 2021年10月1日号