もう一つは「切迫性便失禁」。慌ててトイレに駆け込むも我慢しきれずに漏れてしまうということがあれば、このケースだ。こちらは肛門の外側にある外肛門括約筋が主に関係する。

「外肛門括約筋は随意筋なので、意識して自ら締められます。下痢になって漏れそうなときにお尻に力を入れて我慢することがあると思いますが、それがこの筋肉です」

 便漏れの鍵となる肛門括約筋がちゃんと働いてくれない原因は何か。加齢のほかに手術の影響があるという。痔や直腸がんの手術も便失禁を引き起こす可能性がある。

「手術の際に括約筋が損傷することがありますし、筋肉を支配する神経がダメージを受けることもあります。手術ではなくとも、女性の場合は出産の際のいきみによって筋肉、神経ともにダメージを受けることがあります」

 さらに出産の際の斜切開が肛門括約筋の一部に及び、断裂してしまうこともある。

 持病の有無も確認したい。糖尿病や神経疾患、脳梗塞も神経に影響を及ぼすため、便失禁の原因になる。特に壮年男性には糖尿病を患う人が多く、注意したい。

 ほかにも、一見、便漏れとは正反対にも思える意外な原因がある。

「高齢男性に多い糞便塞栓。便秘です。直腸に便がたまって排便しきれずにいる状態が続くと、固まった便の外側から便が漏れ出てきて便失禁の原因になります」

 男女ともに、高齢になると便秘になる人は多い。それだけに排便習慣には気を使いたい。

 便失禁に陥らないために見極められるサインはあるのだろうか。前田教授は二つ挙げる。

「便が軟らかいときや下痢気味のときに下着が汚れたら、たまたまだと思わずに注意してほしい。下痢の頻度が増えるのも兆候の一つです。そして、ガス失禁もサインです」

 ガス、つまりおならだ。前田教授が全年齢の男女460人ほどを対象にとったアンケートでは、知らないうち、もしくは我慢しきれずにおならが出てしまう人は3割いたという。原因は便失禁と同じで、女性に多く、高齢になるにつれ増えていくようだ。ゆくゆくは便失禁になる可能性が大いにあるため、下痢が増えてきたら要注意だ。

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