歩道脇の階段に座り、配布されたばかりのトマトにかぶりついていたのは、3月まで六本木でダイニングバーを経営していたというナカムラさん(仮名、46)だ。
「ここは必ずトマトや果物をもらえるので、ビタミン補給にはもってこい。一人暮らしだと買う機会はあまりないから」
店は東京ミッドタウンの裏手にあった。しかし、コロナ禍で19年の売り上げは前年比9割ダウン。公的支援で1年半ほどしのいだものの、起死回生を狙って始めたFX(外国為替証拠金取引)に失敗して昨年末に約2千万円の負債を抱え、桜の開花前に閉店せざるを得なかった。
バツイチ・独身。港区内の賃貸マンションを引き払って中野区の1Kアパート暮らし。日雇い警備員のアルバイトで生計を立てているという。
「収入は月に手取り14万円。4万8千円の家賃と水道光熱費、携帯電話代、生命保険料を払ったら残るのは5万円ほど。貯金どころか年金を払うのもやっとだから、食費をどう削るか毎日、頭が痛いよ。アハハハハ」
最後は自嘲気味に笑い、アルミ包装クラッカーの封を切った。
50代のイトウさん(仮名)にも話を聞いた。3年前まで電気工事会社の営業をしていたが、上司によるパワハラで心を病み退職。ところがPTSDのため転職しても長続きせず、妻は昨年3月に子供2人を連れて実家に帰った。家賃5万円のワンルームマンションに暮らし、現在も心療内科に通っているという。
「9月にアルバイト先の物流倉庫でけがをしてしまい無職なんです。50万円弱あった貯金は減る一方で、残りは28万円ほど。ここでもらえる食品を当てにして、一昨日から口にしたのは水道の水だけ。今日はこの後、渋谷の美竹公園で別のボランティア団体がやってる炊き出しに行きます。6キロ弱の距離なので徒歩ですよ」
「炊き出し」を行っているのは、「渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合」(通称のじれん)。毎週土曜日の午後6時から、鶏肉と野菜の炊き込みご飯、フルーツなどを配っている。
「毎回、作りたてを提供してくれるので重宝しているんです。やっぱり、温かい食事を食べられると、心がホッとしますから。特にこれからの季節はね」(イトウさん)