膵がんでは「手術ができるかできないか」が大きな選択肢となるが、ここで非常に重要なのは「できる、できない」の判断は病院による差が大きいということだ。
膵臓は近くに動脈や重要な血管があり、がんがこれらの血管に隣接したり巻き込んだりしていることも多く、手術には高度な技術が必要になる。また進行が速く、遠隔転移や再発をするケースも少なくない。膵がんの疑いがあれば、がんの専門病院や大学病院など、ある程度規模が大きく膵臓を専門とする医師、内科、放射線科などのスタッフがそろった病院で診断を受けることが望ましい。東京医科大学病院の永川裕一医師は、次のように話す。
「膵がんは手術も治療も非常に難しい病気です。進行が速いので少しでも早く専門医のいる病院を受診し、精密検査を受けて早急に治療を開始することが何よりも大切です」
■遠隔転移と血管への広がりが手術の可能、不可能を分ける
膵がんの進行度は、切除可能性分類(キーワード参照)によって表されることが多い。手術ができないと判断されるのは、肝臓などへの遠隔転移がある場合と、主要血管浸潤(キーワード参照)がある場合だ。
今回は、遠隔転移はないが血管への浸潤があり、切除不能と診断されたケースを見ていこう。
富山大学病院の藤井努医師は言う。
「血管に浸潤していても、技術的には手術は可能です。ただ、無理に手術をしても予後が非常に悪く、すぐに再発してしまい、患者さんにとって良いことは一つもありません。ですので、まずは化学療法などをおこない、がんを食い止めるとともに遠隔転移を抑えます」
切除不能と診断されると、ゲムシタビンやナブパクリタキセルなどさまざまな抗がん剤を組み合わせた化学療法や、化学放射線療法などがおこなわれる。
一方、遠隔転移や主要血管への浸潤がなく切除可能と診断された場合には、手術が選択される。その場合も、ガイドラインでは手術後の再発を抑え生存率を伸ばすため、手術前に化学療法をおこなうことが推奨されている。