1984年の地下鉄新御茶ノ水駅のエスカレーター風景。この写真だけを見れば、「2列立ち」の姿もうかがえる(c)朝日新聞社

 全国のエスカレーター利用者の事故は2018年からの2年間で1550件発生。このうち805件が歩行中につまずいたり、手すりをもたずに転倒するなどの「乗り方不良」によるものだった。この「乗り方不良」は前回調査(2013年からの2年間)の882件からは減少しているものの、事故原因としては最も多いという。

 同協会は、歩行により当事者が転倒したり、追い抜く際にぶつかって転倒させたりしてしまう例があるほか、異常による急停止の可能性があるため手すりにつかまってほしいということ。障害者やケガをしている人で、片方の手すりにしかつかまれない人が困ってしまう、という点を挙げ、歩行を控えるように呼び掛けている。

 ただ、「片側空け」は歩行者に道を譲るためのマナーだと理解してきた人は多いだろう。

 エスカレーターの文化に詳しい江戸川大学の斗鬼正一名誉教授の研究によると、片側空けは第二次世界大戦時、ロンドンの地下鉄で始まったとされるが、どんな目的だったかは明確になっていない。その後、欧米やアジアに広がり定着していった。現在でも多くの国で続いているという。

 日本での始まりは1967年ごろ。大阪の阪急梅田駅で、阪急電鉄が左側を空けるように呼び掛けるようになったという。その後、東京など各地に動きは拡大。90年代までは「世界のマナー」として、日本でも片側空けが普及されるように願う記事や意見が、新聞に取りあげられることもたびたびあったそうだ。

 東京など大半の地域が右側空け、阪神地区は左側空けという地域による慣習の違いも知られるところだ。

 2000年代に入ると、主に鉄道各社が、徐々に歩くことの危険性を呼び掛けるようになったが、すでに片側空けは定着しており、賛否を呼んできた。

■分速30メートルが大半

 一部の歩行容認派からは「日本のエスカレーターは遅いからイライラする」などとの声もある。

 エスカレーターの速度は法令で定められており、動く歩道のような勾配が8度までのものは分速50メートル以下、8~30度までは分速45メートル以下、30~35度までは分速30メートル以下となっている。国内のエスカレーターの大半は、この分速30メートルのものだ。

次のページ 実は「2列立ち」のほうが速い? その結果は…