「先生が、嘘を書くので大変だったんですよ!」と私が言うと、「え? そんなこと書いた?」と瀬戸内。でました、都合の悪いことは覚えていないふり……。勝手に事実をエイッと変えてしまう。
嘘を書くのが小説家だと常々私に言いますが、エッセイもそうなのでしょうか。
私たちは書かれても「違いますよ!」と反論する場がないので、あきらめるしかありません。でも実際は、話を盛って書かれていたり、事実と違っていても、読むと面白いので、流石だなぁと感心してしまうのです。「面白ければいいのよ」という瀬戸内の言葉通りかもしれません。
私が今回書いている理由は、瀬戸内が風邪をひいてしまい、寝込んでいるからです。季節の変わり目なので体調も崩しやすいのでしょう。
こちら、コロナ禍で静寂が続く寂庵は、緩やかで穏やかな日々です。
週に2度のリハビリは続けています。廊下を歩いたり、外を散歩したり、「歩く」ということは基本的に、「イヤ」と言って拒否。それなので、寝ながら出来る脚の運動をしてもらっています。目と鼻の先のお堂もコロナになってからは行っていません。
食欲は本人もよく言うようにございます。お酒も毎晩呑みます。
最近私が通勤途中にあるパン屋さんで、焼きたてパンを買ってきて朝食に出します。
「おいしい」と言いながら食べ、食べ終わったら、「私パン好きじゃないのよね」と、ごちそうさまの代わりに言います。いつもパンは嫌いと言いながら全部食べるのです。不思議!
執筆の仕事がないときは、横になって寝ていたり、本を読んでいたり。週刊誌が軽くて寝ながら読むにはもってこいのようです。なので、よくそのまま眠ってしまい、顔の上に雑誌がおおいかぶさっています。
瀬戸内と私の会話は専らもうすぐ2歳になる息子のことです。瀬戸内がこんなに母性が溢れる人だということは知りませんでした。どんなときでも「チビは元気?」と気にしてくれます。二人を見ていると私はとても幸せな気持ちになりつつ、「いつまでこの子を見られるかなぁ」という瀬戸内の一言に切なくなったりします。
100歳前の瀬戸内には風邪も油断なりません。医師に診てもらいながらゆっくり休んでもらいます。
横尾先生もくれぐれもお体ご自愛ください。まなほより
※週刊朝日 2021年10月15日号