『美男におわす』展で展示されている木村了子さんの《男子楽園図屏風―EAST &WEST》(左隻)2011、作家蔵 撮影:宮島径
『美男におわす』展で展示されている木村了子さんの《男子楽園図屏風―EAST &WEST》(左隻)2011、作家蔵 撮影:宮島径
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 まさに「美男尽くし」のうるわしい展覧会『美男におわす』展が、埼玉県立近代美術館で開催されている。江戸時代の浮世絵から少女漫画まで、時代やジャンルを問わない幅広い「美男画」が並び、開始以来盛況だ。女性をモチーフにした「美人画」には長い歴史があるが、「美男画」に注目した展示は珍しい。展覧会の狙いに迫るとともに、伝統的な屏風絵に現代風の「イケメン」を描く木村了子さんと、『パタリロ!』などで知られる漫画家の魔夜峰央さんに、「美男」について聞いた。

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 江戸時代の若衆に、国貞や国芳、写楽が描く浮世絵。さらには白馬に乗った王子、屏風に描かれた溌剌たる現代のイケメンたちまで。展覧会場には掛軸や絵巻、屏風、油絵、彫刻が並ぶが、モチーフはすべて「美男」だ。 

 さらには『日出処の天子』の山岸凉子、『パタリロ!』の魔夜峰央、『大奥』のよしながふみら日本を代表する漫画家たちが描く美青年や、人気漫画『聖闘士星矢』のキャラクターも、日本美術の流れのなかで一緒に展示されている。

 そもそも「美人画」とは美しい人間を描いた絵のこと。そこに男女の差はないはずだが、多くの人がイメージするのは女性をモチーフにした絵画だろう。いつのまにか私たちは「美人といえば美しい女性のこと」と、思い込んでいたのではないだろうか。けれど残されている絵画を見れば、その時代ごとに当時の流行や男性観を反映した男性像が数多く描かれている。だがなぜか「美男画」というジャンルは生まれなかった。

 展覧会を企画した、埼玉県立近代美術館学芸員・五味良子さんはこう話す。

「『美男におわす』展は、絵画をはじめとする日本の視覚文化に表された美少年、美青年のイメージを追いかけることで、人々が理想の男性像に何を求めてきたかを探る試みです。展覧会のタイトルは、与謝野晶子が鎌倉の大仏を詠んだ<かまくらや みほとけなれど 釈迦牟尼は 美男におはす 夏木立かな>という短歌から引用しています」

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鎌倉の大仏は「美男」