美男というと「見た目」「ルックス」をイメージするが、今回の展覧会は「見た目だけを問題にする意図はない」と五味さんは言う。
「鎌倉の大仏を美男と思うかどうかは見る人の自由です。与謝野晶子は美男だと思い、歌に詠んだ。その歌に触れて、そういう見かたもあるのか――と、発見する人もいるでしょう。同じように今回の展覧会は『これが美男だ』と決めつけるものではありません」
今回の展覧会は埼玉県立近代美術館と島根県立石見美術館との共同企画で、担当する4人の学芸員は全員女性。「私の好きな美男画はこれ。あなたの好きな美男は?」と、和気藹々と準備は進んだそうだ。
■エロスとユーモアで美男を描く
今回の展覧会で、ひときわ目を引く屏風絵がある。右雙(右側)に7人の肉食系男子、左雙(左側)に7人の草食系男子を描いた《男子楽園図屏風―EAST&WEST》だ。伝統的な屏風絵だが、そこに描かれている男子はアイドル風の「イケメン」。輝くような美男達に目を奪われる作品だ。
「左雙に描いた田植えの男性は、グラビアアイドルの女豹のポーズからヒントを得ました。イケメンが女豹のポーズをして自然に見えるのはどんなシチュエーションだろう――と考えていて、『そうだ、農耕図がテーマだから田植えをさせよう!』と思いついたのです」
作者である日本画家の木村了子さんはこう語る。木村さんは2005年からイケメンを描き続けており、美人画の歴史に一石を投じる存在だ。
「以前は若い女性像を描いていて、その頃は疑うこともなく『人物像を描くなら女性』と思いこんでいたんです。ただ私自身はヘテロセクシャルでもあり、男性を描いたほうが美人画として匂い立つような色気やときめきが描けるのではないか、と思うようになりました」
溌溂とした男性像を描くまでには、実は紆余曲折があった。
「女性像を描き始めたきっかけは、昔のポルノ映画の女優さんの色っぽい上に奔放でかっこいい姿を観て『エロティシズムは生きるパワー、生きる喜びだ』と思ったことです。ただ、描き始めてみると、思いの外、絵の女性像と自分自身が同一視されて観られているように感じました。たとえば女性のヌードを描いた作品を観て『これはあなたの姿ですか』と言われたり、『エロティックな女性を描くならもっと自分自身をさらけだせ』というコメントが多いことが引っかかってはいたんです」