そこでバイデン政権が考えついたのが、独立心の固いインドと、アメリカに頼り切るだけで自身の防衛予算を大幅に増額しようとはせずに中国との経済的繋がりだけは確保しようという姿勢が見え見えの日本を外して、信頼に足る英語圏の3カ国の同盟を結成する方針だった。このようなAUKUS結成にオーストラリアを引っ張り込むための目玉商品が原潜だったのである。

米英豪の新たな安全保障の枠組み「AUKUS」についてホワイトハウスで発表するバイデン米大統領/9月15日、ワシントン(c)朝日新聞社
米英豪の新たな安全保障の枠組み「AUKUS」についてホワイトハウスで発表するバイデン米大統領/9月15日、ワシントン(c)朝日新聞社

 日本では、原潜を核兵器と結びつけた論調が見受けられるが、そもそも原潜とは動力源が原子力(小型原子炉)である潜水艦のことで、それ自体が核兵器というわけではない。ただし、現在米国、ロシア、中国、英国、仏、インドが運用中の核弾道ミサイルを搭載する潜水艦はすべて原潜(弾道ミサイル原潜、SSBNと呼ばれる)であるため、核兵器と混同されがちだ。だが、米ロは、核弾頭だけではなく非核弾頭も装着できる長距離巡航ミサイルを多数搭載した巡航ミサイル原潜(SSGN)を運用している。

■中国には非原潜が厄介

 その他にも、上記6カ国はいずれも、敵のSSBNやSSGNを発見・追尾し、場合によっては撃破するための攻撃型原潜(SSN)と呼ばれる原潜も運用している。動力源に原子力を用いない非核動力潜水艦(ディーゼル・エレクトリック推進、非大気依存推進などの種類がある)では、高速(原潜の水中最高速度は30~40ノット、非核動力潜水艦の場合は20ノット程度)かつ長期間(原潜の場合は2カ月程度、ディーゼル・エレクトリック艦の場合は数日、非大気依存推進艦の場合は2週間程度)にわたって潜航可能な原潜を追尾することができないため、自らも高速のSSNが必要となるのだ。

 いずれにせよ、原潜は6カ国しか保有していない兵器であり、強力な海軍のシンボルとみなされがちだ。ただ、非核動力潜水艦のメリットも多々あり、原潜のほうが“強い兵器”と単純にみなすわけにはいかない。

 実際のところ、AUKUSのターゲットとされている中国海軍はアタック級のほうが原潜よりも厄介な相手だったと胸をなで下ろしているかもしれない。(軍事社会学者・北村淳=米国在住)

AERA 2021年10月11日号