米国防総省に到着した豪州のモリソン首相(右)とあいさつするオースティン米国防長官/9月22日、米バージニア州アーリントン(gettyimages)
米国防総省に到着した豪州のモリソン首相(右)とあいさつするオースティン米国防長官/9月22日、米バージニア州アーリントン(gettyimages)

 バイデン政権が無理やりオーストラリアを取り込んだ英語圏「三国軍事同盟」を結成したのは、米国自身の外交・軍事力では抑圧できなくなってきた中国の強力な海洋侵出の動きを「米国が主導して牽制している」という“やっている感”を醸し出そうとしているからである。

 米国が20年間にわたって対テロ戦争に軍事資源を集中させている間に、中国の海洋戦力は米国のそれを猛追。例えば長射程ミサイル戦力や無人機類といった一部は、米国を質量ともに上回っていることをペンタゴン自身も認めざるを得ない状況になっている。

■クアッドの目論見

 トランプ政権は「世界最強の米海軍」再興のために、軍事予算の増強方針を打ち出した。しかし、バイデン政権は軍事費増強には消極的で、そもそも中国と直接的に軍事対決する意思は持ち合わせていない。他方、「民主国家のリーダー」を自任する手前、中国による覇権主義的海洋侵出には“待ったをかける姿勢”を示さなければ内外に対して格好がつかない。そのため、同盟国や友好国を“動員”して対中国牽制網を構築する方針に躍起となっている。

 まずは公海の航行に関する自由原則の維持が脅かされているという名目でNATO諸国に南シナ海へ軍艦を派遣させ、中国に対する牽制を期待した。仏独は軍艦を派遣し、英国は空母艦隊を派遣した。だが、仏独の軍艦派遣は中国牽制というよりは名目どおり国際海洋法の秩序維持のためのもので、強力な中国軍に対する牽制などにははるかに及ばない規模のものだった。

 バイデン政権は自らが主導して、中国の軍事的脅威におびえつつ米国を頼りにしている日本とオーストラリア、それに中国との国境紛争を抱えているインドを加えたいわゆる「クアッド」によって、中国包囲網を結成しようと試みている。だが、インドは自主防衛の気概が強固なため、クアッドに軍事的要素を盛り込むことを拒絶し、日米が期待するようにクアッドにより中国を軍事的に牽制する目論見(もくろみ)は挫折した。

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