フランスがオーストラリアに潜水艦の建造契約を破棄されたと怒っている。一方、オーストラリアは米英と「AUKUS」を創設。一体、何が起きているのか。AERA 2021年10月11日号から。
【写真】米国防総省に到着した豪州のモリソン首相とあいさつするオースティン米国防長官
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オーストラリアは、第2次世界大戦中に強力な日本海軍によって英国ならびに米国との海上補給路を断たれて孤立する恐怖に直面した。その悪夢が、今度は中国海洋戦力の強大化によって蘇(よみがえ)ってきたのだ。
その中国は「我々は日本の失敗の轍(てつ)は踏まない」と豪語し、南沙諸島に海洋軍事基地群を建設するなど着実に海洋権益を拡大していて、オーストラリアにとっては中国の軍事的脅威は深刻さを増している。
海洋戦力では中国に対抗することなど全く不可能な状態のオーストラリアは、既に数年前に対中防衛力を強化するために貧弱な潜水艦戦力を充実させる方針を打ち出した。オーストラリア海軍は旧式潜水艦を6隻保有しているだけだったからだ。
自国には潜水艦建造技術がないオーストラリアに、潜水艦輸出国であるフランスとドイツが売り込みを開始。「武器輸出(禁止)三原則」から、条件付きで武器輸出を認める「防衛装備移転三原則」へと舵を切った安倍政権は、仏と独に続いて潜水艦売り込みレースに加わった。しかし、すでにいち早くオーストラリア軍・政府機関、それに政治家や地元関連企業に食い込んでいた仏が「史上最高額の武器取引」といわれた12隻の新鋭潜水艦調達契約を勝ち取ったのだった。
しかしながら、仏製「アタック級」潜水艦は、オーストラリアの地場産業も動員して建造されることになっていたものの、契約内容が不鮮明なことに加え、予定建造費が膨張して、オーストラリア国内からはキャンセルの声も出始めた。ただし、両国の首脳会談などによって「アタック級」プロジェクトは継続されるかに見えた。
■英語圏の「三国同盟」
その矢先に、今度はバイデン政権が英国を誘ってオーストラリアに原子力潜水艦(以下、原潜)8隻の技術を供与する話を手土産に、英語圏「三国軍事同盟」結成を持ちかけた。今後20年近く、「アタック級」の調達に不安を抱えるオーストラリア政府・海軍は、国連常任理事国5カ国とインドの計6カ国の海軍しか保有していない原潜を手にできるチャンスに飛びついた。
そのためには「アタック級」プロジェクトをキャンセルしなければならない。仏は7兆円規模以上といわれる契約を破棄されるとともに、軍事的信頼関係も踏みにじられ、当然のことながら激怒している。北大西洋条約機構(NATO)諸国でも米英への不信感が生じている。