美術家、長坂真護。ガーナのアグボグブロシーには、先進国から大量の電子廃棄物が持ち込まれる。その処理で30代で亡くなる人も多い。資本主義のなれの果てを目の当たりにした長坂真護は、その電子廃棄物を利用してアートを作り始めた。作品の売り上げは、アグボグブロシーのために投資。「持続可能な資本主義」を提唱し、世界を変えるために絵筆をとる。
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今年の春先、都内のある企業を訪ねると、入り口に2メートルほどの立体像が鎮座していた。コケティッシュな黒人の少年の目には壊れたキーボードがはめられ、耳は古ぼけたコントローラー、鼻は汚れた折り畳み式携帯などで象(かたど)られ、腹からはPCの基板が突き出ていた。そして足元にはゲーム機やプラスチック製のおもちゃ、様々な家電の破片などがぎっしり敷きつめられている。
不思議な存在感を示していたその立体像は、「世界最大の電子機器廃棄処理場」と言われるガーナのアグボグブロシーから持ち帰った電子機器の廃材で作品を制作している、若手美術家・長坂真護(ながさかまご)(37)の作品という。破片の中には明らかに日本製と分かるものも。日本にはリサイクル法があり、電子機器や家電の廃棄は国内で処理されているはずなのになぜ、という疑問が湧いた。
以来、長坂が気になり取材を開始。4月中旬、東京・伊勢丹新宿店で個展を開くと聞き赴いた。6階の催し物会場には電子機器の廃材で作った作品が200点ほど飾られ、いずれもポップで明るい作風であるものの、電子ごみで制作されている事実に胸が疼(うず)く。作品の明るさが皮肉にも、先進国の経済活動、あるいは消費社会の歪(ひず)みを浮き彫りにしているように見えた。事実、来場者の多くは個々の作品の前で長らく足を止め、鑑賞というより思索している面持ちだった。
衝撃的だったのは「Still A Black Star」と銘打たれた5分ほどのドキュメンタリー映画の予告編。エミー賞受賞監督のカーン・コンウィザーが、アグボグブロシーで活動する長坂を撮影したもので、昨年、米国の「Impact DOCS Awards」の4部門を受賞(日本公開は未定)。ガーナの首都アクラの近郊に位置するアグボグブロシーには先進国から毎年25万トンもの電子廃棄物が持ち込まれ、広さは東京ドーム32個分。そこのスラム街で暮らす3万人の住人は、廃材を燃やし残った金属を売り1日500円程度の賃金を得ているものの、廃棄物には鉛や水銀、ヒ素、カドミウムなどの有害物質が含まれ、30代で病に蝕(むしば)まれ命を落とす人が後を絶たないという現実が映し出されていた。
今や、電子機器を使わない人はほとんどいない。会場に足を運んだ人は、自分のPC、あるいは携帯など生活を豊かにしてくれるツールが、その後アグボグブロシーに投棄され、現地の人びとの命を縮めているのかと思うと、とても平常心ではいられなかったはずだ。長坂が言う。
「僕の展覧会を見て、この現実を初めて知ったという人がほとんど。でも、地球規模の問題に自分も何かしなくてはというモチベーションになったと語ってくれる人も少なくない」