展示品は小さなもので30万円、大型の作品には数千万の値段がつき、開催期間の売り上げは数億円になった。これは近年、伊勢丹新宿店で行われた美術催事品の最高額という。
ちなみに、展覧会前に行った取材時に、なぜ自分の絵が高額で売れるか、その仕組みをキャンバスに図を描いて説明してくれたことがある。その錬金術を独自の「相対性理論」と呼んでいたが、その落書きともいえる図柄がなんと、会場で60万円の値段がつけられていた。
購入の多くは経営者
SDGsの理念が可視化
長坂が言う価値の「相対性理論」はこうだ。
「僕の作品はガーナでは1千万円では売れません。価値がないからです。でも、グローバル資本主義の頂点に立つ米国や日本では1千万円で売れる。このプラス1千万円の価値はどこから生まれるかというと、アグボグブロシーのマイナス1千万円から。彼らの貧困は先進国の人びとの富と対の関係にある。一方にプラス1千万円があるとき、もう一方にマイナス1千万円の負債が発生します」
長坂が続ける。
「でも、アートはこの分岐点を超えられる。アグボグブロシーの人びとの貧困がひどいものであればあるほど、彼らの願いをビジュアル化した僕の作品は先進国で高額で売れる。これが僕の仕掛けたレバレッジです。もし僕が秋葉原で集めた部品で制作してもほとんど価値はないと思いますね」
長坂の作品の購入者の多くは経営者だ。もちろん、投機目的で買い付ける人もいるが、長坂が生み出す作品は今の社会環境にマッチしていると、環境問題に敏感な若手経営者らの間で評判になった。国連がSDGs(持続可能な開発目標)を提言して以来、その指標を企業理念に取り込む会社が増えてきている一方で、意義を理解しても皮膚感覚で捉えるまでには至っていなかった。だが、長坂の作品にはSDGsの理念が可視化されていると注目が集まった。
その一方、絵のクオリティーそのものを評価する専門家もいる。クリスチャン・ラッセンや天野喜孝などの絵を世に広めた、アールビバン社長の野澤克巳(68)もその一人。
「ガーナに行く前から彼の作品には注目していましたが、上手いけどまだ一皮剥(む)けていない感じだった。ですが、作品に意味を持たせたガーナ以降は殻を突き破り才能が迸(ほとばし)り始めた。僕は現代アートをかなり見ていますが、真護君は間違いなく世界のトップの仲間入りをしたと思いますね」
(文・吉井妙子)
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