煉獄は快活で明朗な性格ではあるが、そんな印象とはうらはらに、彼は表情、とくに「目線」がわかりにくい人物だ。目は見開かれていることが多く、感情のとらえどころが難しい。

 煉獄の初登場シーンは、炭治郎が鬼の妹を連れていることを断罪する「柱合会議」の場面であるが、煉獄は竈門兄妹の処刑を主張している。この時の煉獄の目からは真意が読み取りづらく、「斬首する!」という言葉が恐ろしく聞こえる。

 そして、無限列車の任務で煉獄と再会した炭治郎は、最初、煉獄の目線に対して、とまどいの気持ちを口にしていた。

<待って下さい そしてどこ見てるんですか>(竈門炭治郎/7巻・第54話「こんばんは煉獄さん」)

 この煉獄の「目」と表情に注目すると、原作と劇場版のそれぞれで強調されている、彼の性質が明らかになっていく。

■煉獄杏寿郎の表情のちがい

 煉獄家では母の病死後、炎柱だった父が無気力で粗暴な人物へと変わっていった。ある日、煉獄は炎柱就任報告のため、明るい表情で父に話しかけるが、父からは心ない返答がなされた。

<柱になったから何だ くだらん…どうでもいい>(煉獄槇寿郎/7巻・第55話「無限夢列車」)

 原作では、父の言葉を聞いた瞬間に、煉獄の顔には驚きと悲しみが入り混じる。しかし、劇場版では驚きだけが強調されていた。それはなぜか。

 このあと、場面は弟・千寿郎との会話シーンに移るのだが、原作の煉獄はうつむく場面が複数あり、悲しみを隠しきれない様子だ。それでも弟のことを思いやり、何とか自分の気持ちを立て直そうと、煉獄は大きな声で弟に語りかける。

<どうでもいいとのことだ しかし! そんなことで俺の情熱は無くならない! 心の炎が消えることはない!>(煉獄杏寿郎/7巻・第55話「無限夢列車」)

 ここで原作では、あの「どこを見ているのかわからない」煉獄の表情に戻ってしまう。しかしその目は、悲しみと落胆のただ中にあっても、未来を、人々を助ける自分の責務を、ただただ一心に見すえるため、耐えているようにも見える。

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「悲しみ」は顔が映らないカットで表現