東京地下鉄 工務部統括工務係・島本達也(しまもと・たつや)/1991年生まれ、愛媛県出身。地元の工業高校を卒業後、四国にはない地下鉄に関心を持ち、2010年4月に東京地下鉄に入社。工務部に配属、現在に至る(photo 写真映像部・東川哲也)
東京地下鉄 工務部統括工務係・島本達也(しまもと・たつや)/1991年生まれ、愛媛県出身。地元の工業高校を卒業後、四国にはない地下鉄に関心を持ち、2010年4月に東京地下鉄に入社。工務部に配属、現在に至る(photo 写真映像部・東川哲也)
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 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2022年11月21日号には東京地下鉄 工務部統括工務係の島本達也さんが登場した。

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 午前5時過ぎ、東京メトロ千代田線の始発列車が動き始める。真夜中の作業を終え、いつも通りに走る始発を見送ると、安心し、肩の力が抜けていく。

「今日も、無事に一日が始まった」

 入社以来、レールを保守点検する工務部に所属している。通勤、通学など首都圏の人々の移動を支える仕事だ。

 注目されにくいが、この地道な仕事がなければ、列車は安全に走れない。

 鉄製のレールは、車輪との接触で少しずつ摩耗し、劣化していく。保守を怠れば金属疲労が蓄積し損傷することもあり、列車の走行安全性の低下につながる。

 経年だけでなく、列車の乗車人数、速度などで、劣化の具合はさまざまだ。地下鉄とは言え、地上に出ている部分では、夏場の酷暑によるレールの温度上昇や風雨によるさびなども要因になる。

 取りかえ作業ができるのは、終電後の午前1時から午前4時まで。摩耗したレールを取り外して、新しいレールを取り付ける。

 だが、工事に使う特殊車両の移動や、古いレールの撤去にも時間を要するため、実際に作業できる時間はさらに限られる。

 レール1本の長さは25メートルで、重さは1トンを超える。暗く、狭い現場で部分的に作業を進め、長い期間をかけて、レール全体を交換していく。

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