■「ソース(むしろタレといいたい)がとろりとかかったビーフ・ステーキ」

テキ(ヒレ肉)3950円[写真=松永卓也、高野楓菜(写真映像部)、大野洋介]

<大阪洋食〔重亭(じゅうてい)〕の戸を開けると、女中さんも若衆も、みんなが愛想よく迎えてくれるし、中年男の客なら、「大将、何にします?」と、尋(き)いてくれる>(『散歩のとき何か食べたくなって』から)

 いかにも気さくな雰囲気だ。

「昔は近くに新歌舞伎座があって、そこを訪ねた池波先生が、ちょこちょこ見えられましたねえ。座るのはたいてい、玄関脇のテレビの下のテーブルでした」

 そう回想するのは、2代目店主夫人の吉原敏子さん。いつもカメラをぶら下げていて、店の中でもなにやら撮影していたのが印象的だったという。

 健啖家の池波が好んだのはステーキ。<むしろタレといいたい>(同)と記した濃厚なソースがかかっている。ケチャップや自家製デミグラスソースなどを混ぜ合わせたオリジナルで、隠し味に醤油を使うため、ご飯によく合う。

重亭/住所:大阪府大阪市中央区難波3‐1‐30/営業時間:11:30~14:30L.O. 16:30~19:30L.O./営業時間:定休日:火 他に不定休あり

テキ(ヒレ肉)3950円

■「伊勢米と山いもを合わせた皮に、すこしも胸にもたれぬ、おいしい餡」

薯蕷饅頭、織部饅頭ともに1個270円。取り寄せ可[写真=松永卓也、高野楓菜(写真映像部)、大野洋介]

<桑名で、むかしから知られた〔花乃舎(はなのや)〕の〔薯蕷(じょうよ)饅頭〕を、私は朝から三つも食べた。(略)型がふっくらと古風で、なんともいえぬうまいものだ>(※)

 米と山いもで作られた皮は、生地のキメが細やかでふっくらしている。

「伊勢の契約農家で作ったものを使っています」と、5代目・水谷景一さん。こし餡の「薯蕷饅頭」とつぶ餡の「織部饅頭」の2種と季節限定品がある。

花乃舎/住所三重県桑名市南魚町88/営行時間:販売8:30~18:00 喫茶9:00~17:00/定休日:月

薯蕷饅頭、織部饅頭ともに1個270円。取り寄せ可

(取材・文/本誌・菊地武顕)

週刊朝日  2023年2月3日号

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