一見、「天守や櫓がなく、土と山だけ」と思われがちな山城。しかし開発にさらされがちな平城等に比して保存状態が良く、ほぼ往時の姿をとどめている山城も多い。週刊朝日ムック『歴史道 Vol.17』では、「戦国の山城の歩き方」を特集。3人の専門家に「オススメの山城」を推薦してもらった。今回の推薦者は、城郭考古学者で山城ファンの千田嘉博さん。選定のテーマは「絶対に城攻めしたくない山城」だ。
【千田さんが選ぶ「攻めたくない山城ベスト10」詳細と写真はこちら!】
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――山城にもさまざまな楽しみ方があると思います。当時の武将の視点で、「絶対攻めたくない城」をご紹介ください。
城はとても美しく壮大で、鑑賞するのはとても楽しいです。しかしそもそも城は戦いのために構築されたもので、第一に求められる機能は防御・反撃力です。今回は、その点で極めて優れた山城をご紹介します。実際に足を運べば、おそらく「もう助からない」「絶対死ぬ」と感じますが、堅固な城を造って自分たちの村や所領を守ろうと努力した先人たちの思いを、ぜひ想像してみてください。
なお、山城の定義はあいまいですので、ここでご紹介する城には、一般的には平山城と言われているものも含んでいます。
――よろしくお願いします。
まず、“戦国の土づくりの城の教科書”と呼ばれているのが、埼玉県の嵐山町にある杉山城です。それほど大きな城ではありませんが、本丸を頂点に各尾根に曲輪を階層的に設け、入口付近には必ず横矢をかけ、初期段階の馬出しも重ねています。おそらく攻めたとしても理路整然と効率的に弓矢や鉄砲の餌食になったでしょう。
福島県の会津美里町にある向羽黒山城も、ものすごい山城です。山の頂上の本丸から麓まで、まるで迷路のように横堀、竪堀を縦横無尽に巡らし、山の中段も曲輪と堀と土塁を複雑に配置している。城を守っている兵も道に迷うのではないかという複雑堅固な山城です。軍事要塞に必要な要素を全部詰め込んでいて、攻めても生きて帰れる気がしません。
見た目の凄さでいえば、群馬県東吾妻町にある岩櫃城です。太古の昔から信仰の対象となってきた巨大な岩山である岩櫃山に守られた、まさに鉄壁の城で、戦意喪失は間違いありません。